CQ6 成人再発膠芽腫に対する治療はどのように行うか?
A 手術
推 奨1
症例によっては,再発膠芽腫に対して再手術を考慮してもよい。(推奨グレードC1)
解 説
 再発膠芽腫に対する再摘出術は,腫瘍塊によって生じている症状軽減のみならず,ステロイド投与量の減量や併用する追加療法の効果を高める意義が指摘されている。高い術前PS(KPS 70以上)・全摘出・若年者(50歳未満)・初発から再発までの期間が長いこと(6カ月以上),等を満たす症例が,再手術により生存期間が延長されると報告されてきた1,2)(いずれもレベルⅢ)。しかし,いずれも初発膠芽腫に比較してさらに不均一な症例群を対象とした後方視的検討であり,再発膠芽腫に対する再手術の意義は確立していない。
 ParkらはNIH recurrent GBM scaleを用いて,再発膠芽腫に対する手術適応を検討した。NIH recurrent GBM scaleとは,KPS scoreが80%以下・腫瘍容積が50 cm3以上・MSM(motor—speech—middle cerebral artery)score(推定される運動・言語領域及びM1—M2 segmentを含むかどうか)が2以上という3項目について,それぞれ1 pointを与え,0~3 pointsまで4段階に分類する方法である。まずNational Institutes of Health(NIH)における34例の連続再発膠芽腫症例に関して,このNIH recurrent GBM scaleと再発後の生存期間を検討後,Brigham and Women’s Hospital(BWH)における109例の連続再発膠芽腫症例を用いて検証した3)(レベルⅢ)。その結果,予後良好群(0 point)・予後中間群(1~2 points)・予後不良群(3 points)の間で有意に生命予後が異なり(生存期間中央値はそれぞれ10.8・4.5・1.0カ月),これはBWHにおける検証結果でも証明された(生存期間中央値はそれぞれ9.2・6.3・1.9カ月)。
 このように,予後良好群と中間群では再摘出後に比較的長期間生存可能であったという結果から,これらの群に対しては再手術を考慮すべきであると結論づけている3)(レベルⅢ)。しかし,この解析結果に関しては,予後不良群がNIH,BWHともに3例ずつでしかない こと,術後に化学療法を含めた追加治療を行っていないことが問題点として指摘されている。すなわち,化学療法の併用により,再発膠芽腫に対する手術療法はより有意義になり得る可能性が示唆されている。実際に,再発膠芽腫に可及的再摘出術と併用してカルムスチン徐放性ポリマー留置やIL13—PE38QQRのconvection—enhanced deliveryが用いられた第Ⅱ,Ⅲ相試験では,生存期間中央値は35.3~50.3週と比較的良好な結果が得られており,再発膠芽腫に対する手術療法の意義を高める上で総合的な治療の有用性が示唆される4,5)(それぞれレベルⅡb,Ⅰb)。
 North American Brain Tumor Consortiumにて行われた再発膠芽腫に対する様々な薬剤を用いた19の第Ⅱ相試験に対してメタアナリシスが行われ,再発時に再摘出を行った181例と行わなかった412例の6カ月無増悪生存割合と全生存割合が検討された6)(レベルⅠa)。その結果,両群間には有意差は認められず,再発膠芽腫に対しての新規治療方法を模索するうえで,再摘出の有無により層別化する必要はないと結論づけている。しかし,今回の結果は再摘出術のすべて必要性を否定するものではなく,再発時の頭蓋内圧亢進症状や局所症状を緩和し,追加治療に十分耐えられるようにするために再摘出術は重要である,と考察に記載されている点は注目すべきである。彼らは,再摘出術の意義を,再発時に手術を必要とせず治療可能な症例と,塊として存在する腫瘍により状態が悪化している症例を手術により均衡化(“balance the scales”)することにあると表現している。
 再発膠芽腫に対する再摘出術の適応を個々の症例において明確に決定することは困難であるが,再摘出がその予後改善に重要な意義を有する症例は存在し,さらに追加治療を行うことにより膠芽腫全体の予後改善の可能性が示唆されているといえよう。
◆文  献
1) Barbagallo GM, Jenkinson MD, Brodbelt AR.‘Recurrent’glioblastoma multiforme, when should we reoperate? Br J Neurosurg. 2008;22(3):452—455.(レベルⅢ)
2) Helseth R, Helseth E, Johannesen TB, et al. Overall survival, prognostic factors, and repeated surgery in a consecutive series of 516 patients with glioblastoma multiforme. Acta Neurol Scand. 2010;122(3):159—167.(レベルⅢ)
3) Park JK, Hodges T, Arko L, et al. Scale to predict survival after surgery for recurrent glioblastoma multiforme. J Clin Oncol. 2010;28(24):3838—2843.(レベルⅢ)
4) Quinn JA, Jiang SX, Carter J, et al. PhaseⅡ trial of Gliadel plus O6—benzylguanine in adults with recurrent glioblastoma multiforme. Clin Cancer Res. 2009;15(3):1064—1068.(レベルⅡb)
5) Kunwar S, Chang S, Westphal M, et al. PhaseⅢ randomized trial of CED of IL13—PE38QQR vs Gliadel wafers for recurrent glioblastoma. Neuro Oncol. 2010;12(8):871—881.(レベルⅠb)
6) Clarke JL, Ennis MM, Yung WK, et al. Is surgery at progression a prognostic marker for improved 6—month progression—free survival or overall survival for patients with recurrent glioblastoma? Neuro Oncol. 2011;13(10):1118—1124.(レベルⅠa)
B 化学療法
推 奨2
成人再発膠芽腫に対して全身・局所化学療法を考慮してもよい。(推奨グレードC1)
解 説
1.通常量テモゾロミド
 欧米での多施設共同臨床試験として,テモゾロミド(temozolomide)未治療の再発膠芽腫に対するテモゾロミドの有効性を検討する比較化第Ⅱ相試験が施行された。1995~1997年にかけて,225例の初回再発(前治療としてテモゾロミドは未使用)の膠芽腫に対して,テモゾロミド投与群とプロカルバジン投与群を比較した。テモゾロミドは,一日150~200mg/m2を5日間連続投与し,28日を1サイクルとして繰り返し施行した(5—day on/23—day off)。プロカルバジンは一日あたり125~150 mg/m2の同薬を28日間連続内服し,28日休薬する(56日を1サイクル)投与法を繰り返し行った。6カ月無増悪生存割合は,テモゾロミドは21%(95%CI:13—29)であり,プロカルバジンは8%(95%CI:3—14)であり(HR=1.54,p=0.08),無病生存期間中央値はそれぞれ12.4週と8.32週であった(HR=1.47,95%CI:1.11—1.95,p=0.0063)。毒性は許容範囲であった。この結果をもって欧米では再発悪性神経膠腫に対してテモゾロミドの保険適応が認められた1)(レベルⅠb)。
 続いて我が国において同薬の有効性を検討するためテモゾモミド未治療の成人退形成性星細胞腫(星細胞腫gradeⅢ)初回再発患者32例に対して上記投与法による国内第Ⅱ相試験が行われた。6カ月での無増悪生存割合は40.6%,無増悪生存期間中央値は4.1カ月であった。テモゾロミド未治療の再発悪性神経膠腫に対して5—day on/23—day off投与法は我が国においても安全に遂行可能であり,優れた忍容性を持つことが判明した2)(レベルⅡa)。

2.ニトロソウレア系薬剤
 ドイツの研究グループが2003~2008年における前治療としてテモゾロミド(temozolo-mide)を使用した再発膠芽腫32例に対して,ニムスチン(nimustine:ACNU)を含むプロトコールで治療した結果を報告している。単独ニムスチン投与は14例でテニポシド(teniposide:VM26)との併用は17例であった。6カ月無増悪生存期間は,20%であった。グレード3以上の有害事象を50%に認めた。再発膠芽腫に対してのテモゾロミドの成績と比較して副作用は強いが,6カ月無増悪生存期間は同等であった3)(レベルⅢ)。
 海外においては,再発膠芽腫に対して,ロムスチン(lomustine:CCNU)が第Ⅲ相試験のコントロール群として投与され,やはり20%程度の6カ月無増悪生存割合が報告されている4)(レベルⅠb)。

<注意>
 テニポシド(teniposide:VM26):国内未承認
 ロムスチン(lomustine:CCNU):国内未承認

3.インターフェロン‒β
 再発膠芽腫・退形成性星状細胞腫患者に対するインターフェロン—β(interferon—β)の多施設共同第Ⅰ/Ⅱ試験が,1986~1988年に米国の6つの施設で行なわれた。インターフェロン—β(90—540万単位)が1週間に3回点滴静注された。すべての患者は初期治療として放射線療法がなされており,多くの患者は一種類以上の化学療法を受けていた。登録72例の患者のうち,65例(膠芽腫41例,退形成性星細胞腫24例)が評価可能であり,15例(23%)は病変が縮小,18例(28%)は変化を認めず,無増悪生存期間中央値は23週であった5)(レベルⅡa)。
 我が国では再発膠芽腫・退形成性星細胞腫に対するテモゾロミド(temozolomide)(5—day on/23—day off投与)とインターフェロン—β 300万単位(28日ごと投与)の併用化学療法の安全性を検討する第Ⅰ相試験が行われ,有害事象は認容できるものであることが確認された6)(レベルⅡb)。

4.カルムスチン徐放性ポリマー
 再発悪性神経膠腫に対するカルムスチン(carmustine:BCNU)徐放性ポリマーの効果を評価するために,ランダム化比較試験を施行した。Primary endpointは試験薬留置後の全生存期間とされた。27施設において222人の再発悪性脳腫瘍患者が登録され,カルムスチン徐放性ポリマー留置群110例,プラセボ留置群112例にランダム化割り付けされた。カルムスチン徐放性ポリマー留置群の生存期間中央値は31週,プラセボ留置群のそれは23週であり,primary endpointの全生存期間は単変量解析では有意差を認めなかった(HR=0.83,95%CI:0.63—1.10,p=0.19)。しかし,post—hocに多変量解析を用いて年齢,人種,摘出量,照射法,化学療法の有無,組織診断の因子で調整すると,カルムスチン徐放性ポリマー留置群はプラセボ留置群に比べて全生存期間は有意に延長した(HR=0.67,95%CL:0.51—0.90,p=0.006)7)(レベルⅠb)。同試験において,膠芽腫のみを選択し,同様にpost—hocに多変量解析を用いて因子調整すると,カルムスチン徐放性ポリマー留置群(72例)はプラセボ留置群(73例)に比べて有意にHRが低下した(HR=0.67,95%CL:0.48—0.95,p=0.02)7)(レベルⅠb)。
 再発膠芽腫に対する本剤の有効性・安全性については成人初発膠芽腫と同様に今後の厳密な検討が必要である8)(レベルⅢ)(初発膠芽腫に対するカルムスチン徐放性ポリマーの項:CQ3の推奨7,p33参照)。

5.ベバシズマブ
 膠芽腫は大部分が血管内皮成長因子を発現しているため,血管内皮成長因子に対するヒト化モノクロナール抗体であるベバシズマブ(bevacizumab)は腫瘍血管増殖を選択的に阻害し,膠芽腫の治療薬となる可能性が示されていた9,10)(いずれもレベルⅡa)。引き続き計画された臨床試験では,再発膠芽腫患者(初回再発患者89%,第2回再発11%)を対象としてベバシズマブの単独投与群とベバシズマブとイリノテカン(irinotecan)併用群の2群に分け,6カ月間無増悪生存割合をprimary endpointとして比較,検討している。ベバシズマブ単独群では36%(85例中31例),併用群では51%(82例中42例)が6カ月間,腫瘍の増大を認めなかった。Historical controlにおいて6カ月間無増悪生存割合は15%程度と考えられるため,ベバシズマブは,再発膠芽腫の有効な治療薬となる可能性が示された11)(レベルⅡa)。米国では,これらの結果を受けて再発膠芽腫患者に対するベバシズマブの使用が米国食品医薬品局(FDA)により暫定的に認可された。
 我が国では再発悪性神経膠腫に対するベバシズマブ単独療法の有効性・安全性を検討することを目的として,多施設共同第Ⅱ相試験が開始された。Stuppプロトコールでの治療後の初回再発を中心とした悪性神経膠腫を対象として,ベバシズマブ10 mg/kgを2週間隔で病勢進行まで投与した。Primary endpointは再発膠芽腫での6カ月無増悪生存割合,secondary endpointは再発膠芽腫および全症例に対する6カ月無増悪生存割合,奏効割合,全生存期間,安全性とした。病変評価はMacdonald基準を用いた。2009年8月から2010年7月に31例(初回病理診断膠芽腫29例,gradeⅢ神経膠腫2例)が登録された。膠芽腫患者中初回再発17例,再々発12例であった。膠芽腫再発患者29例の6カ月無増悪生存割合は33.9%(90%CI:19.2—48.5),無増悪生存期間中央値3.3カ月(95%CI:2.8—6.0),奏効割合27.6%,1年生存割合34.5%(90%CI:20.0—49.0),全生存期間10.5カ月(95%CI:8.2—12.4)であった。全32例中7例(24.1%)で6カ月以上の奏効が確認された。ベバシズマブ投与回数中央値は6回であった。主な有害事象は尿蛋白(41.9%),高血圧(32.3%),下痢(25.8%)であり,グレード3以上のものは41.9%に発現した。治療を要した高血圧は6例(19.4%)に観察され,ベバシズマブとの因果関係が否定できない重篤な有害事象は4例(12.9%,虫垂炎,深部静脈血栓症,心不全,痙攣)に認められた。投与中止に至った有害事象は脳出血(グレード1)と好中球減少(グレード2)の2例(6.5%)であった。これらの結果より,ベバシズマブ単独療法は,我が国においても忍容性が高く,膠芽腫再発例を含めた再発悪性神経膠腫に対する有望な治療法の一つであると思われる12)(レベルⅡa)。
 ただし,ベバシズマブ投与時には画像検査上の造影剤増強域の縮小,脳浮腫の縮小といった効果,およびこれらに対応する臨床症状の改善は比較的早期に現れるが,画像上の病巣の縮小と病勢の制御が相関しない症例が存在すること,投与後の再発・再増大の際には腫瘍の浸潤域(T2高信号域)の拡大が著明な傾向があること,造影剤増強域の増大を示さずに臨床症状の悪化がみられること等の問題点が指摘されている13,14)(いずれもレベルⅢ)。

<注意>
 イリノテカン(irinotecan):適応外使用

6.テモゾロミド増量法
 悪性神経膠腫のテモゾロミド(temozolomide)耐性に関係するDNA修復酵素O6—meth-ylguanine—DNA methyltransferase(MGMT)は修復反応に伴って不活化された後,再び活性型に戻ることなく分解される。DNAがメチル化されている箇所が多ければ多いほどMGMTがDNAの修復に費やされ,分解・枯渇化することが想定されていた15)(レベルⅡb)。すなわち腫瘍に対するテモゾロミド露出を増加させることによりMGMTが発現している腫瘍に対してもテモゾロミドの抗腫瘍効果を上げることが理論上可能であり,この仮説に基づいていくつかの,テモゾロミド増量プロトコールが試されている。代表的なプロトコールは,1—week on/1—week off投与,3—week on/1—week off投与,連日投与の3種類である16—18)(それぞれレベルⅡa,Ⅰb,Ⅱa or Ⅲ)。
 ドイツの脳腫瘍グループでは,90例の再発悪性神経膠腫患者を対象として,一日投与量150 mg/m2とし,1—week on/1—week off投与で増量化学療法の第Ⅱ相試験を実施した。通常用量の5—day on/23—day off投与より強い毒性は認められなかった。グレード4以上の血液毒性は,2.6%であり,11例(12%)にグレード4以上のリンパ球減少症を認めたが,遷延性リンパ球減少も日和見感染も観察されなかった。6カ月の無増悪生存割合は,43.8%,無増悪生存期間中央値は24週(95%CI:17—26)であった。生存期間中央値は38週(95%CI:30—46),1年生存割合は23%であり,一定の安全性と有効性が示唆された16)(レベルⅡa)。
 英国脳腫瘍グループでは,447例の化学療法の前治療歴のない再発悪性神経膠腫に対してPCV〔プロカルバジン(procarbazine),ロムスチン(lomustine:CCNU),ビンクリスチン(vincristine)〕,テモゾロミド5—day on/23—day off投与とテモゾロミド3—week on/1—week off投与の3群間で比較試験を行っている17)(レベルⅠb)。9カ月時点での治療完遂率はそれぞれ17%,26%,13%であった。主な有害事象は3群間で大きな差がなかった。PCVをテモゾロミド全体の治療と比較すると,12カ月の生存割合においてPCV群とテモゾロミド群には,有意差は認めなかった(HR=0.91,95%CI:0.74—1.11,p=0.350)。テモゾロミド投与群では5—day on/23—day off治療群と3—week on/1—week off治療群における12週無増悪生存割合はそれぞれ63.6%と65.7%と同程度であった(p=0.745)が,無増悪生存期間(HR=1.38,95%CI:1.05—1.82,p=0.023),生存割合(HR=1.32,95%CI:0.99—1.75,p=0.056),QOL(6カ月間QOLを10ポイント改善した割合:それぞれ49%と19%,p=0.005)と,5—day on/23—day off投与において良い傾向が示唆された。腫瘍制御,QOL改善の点で3—week on/1—week off投与群は5—day on/23—day off投与群に比べて高い有効性を示すことができなかった。
 RESCUE Studyと命名されたカナダでの臨床研究ではStuppプロトコールで治療された後に再発を認めた膠芽腫91例に対して,再増大が観察されるまでテモゾロミド50 mg/m2を毎日連続投与する治療法の有効性が検討された18)(レベルⅡa or Ⅲ)。
 この91例はまず再発様式から
 B1:維持治療6サイクル未満で再発
 B2:6サイクル以上で再発(サイクルの中断なし)
 B3:6サイクル以上施行し,かつ2カ月以上のテモゾロミド無治療期間の後に再発
の3群に分類されている。91例全体の6カ月の無増悪生存割合は,23.9%であった(B1:27.3%,B2:7.4%,B3:35.7%)。1年生存割合はB1,B2,B3グループそれぞれ27.3%,14.8%と28.6%であった。グレード3以上の有害事象は悪心・嘔吐(6.7%),疲労感(5.8%)が観察された。この結果より再発膠芽腫に対するテモゾロミド50 mg/m2/日の連続投与は,有害事象も限定的であり,維持療法早期の再発例や,テモゾロミドが一度有効性を示し,かつテモゾロミド無治療期間を有する症例では,治療選択肢の一つとなる可能性が示唆された18)(レベルⅡa)。
以上より,テモゾロミドの総投与量を増量する治療法が再発膠芽腫において生存期間を延長させる可能性を期待した臨床研究は現時点では肯定的なもの,否定的なもの,いずれも存在しており,今後の研究の展開が注目される。

<注意>
 テモゾロミド1—week on/1—week off投与,3—week on/1—week off投与,連日投与:添付文書に記載された投与法・投与量以外の投与方法

7.プラチナ製剤
 Yungらは,1991年に再発悪性神経膠腫に対してカルボプラチン(carboplatin)単剤の治療の有効性を報告した。30例の再発悪性神経膠腫患者に対して,カルボプラチン400~450 mg/m2を4週おきに投与した。奏効割合は14%,無増悪生存期間中央値は26週であった。軽微な血小板減少と顆粒球減少は観察されたが,重篤な合併症はなかった。グレード3以上の骨髄抑制は約10%程度であった19)(レベルⅡa)。
 再発悪性神経膠腫に対するカルボプラチンとエトポシド(etoposide)による併用化学療法を使用した第Ⅱ相試験には2つの報告がある。Jeremicらは38例の再発悪性神経膠腫患者に対してカルボプラチン300 mg/m2(3日間),エトポシド100 mg/m2(5日間)を4週間ごとに投与した。奏効割合21%,無増悪生存期間中央値は42.5週であった。グレード3以上の白血球減少は37%,血小板減少は42%に観察された20)(レベルⅡa)。また,France-schiらは再発膠芽腫25例と再発退形成性星細胞腫5例,計30例に対して,放射線治療後に4週ごとに,3日間連続して一日あたりカルボプラチン100 mg/m2とエトポシド120 mg/m2を投与した。6カ月無増悪生存割合が33.3%,無増悪生存期間中央値は4カ月,生存期間中央値は10カ月であった。グレード3/4の好中球減少を30例中13例(32.5%)に認めた21)(レベルⅡa)。
 我が国でもAokiらにより,低用量のイホスファミド(ifosphamide),カルボプラチン,エトポシド(ICE)療法の第Ⅱ相試験が行われている。1999年7月~2005年3月までの39例の再発膠芽腫が登録された。イホスファミド(1000 g/m2/日,第1,2,3治療日),カルボプラチン(110 mg/m2/日,第1治療日),エトポシド(100 mg/m2/日,第1,2,3治療日)を6週間ごとに投与する化学療法を行った。グレード3/4の血液学的毒性は8%。臨床検査値の異常は12%に出現した。奏効割合25%,無増悪生存期間中央値は17週,6カ月,12カ月無増悪生存割合はそれぞれ39%と11%であった22)(レベルⅡa)。
 プラチナ製剤を含んだ化学療法は再発悪性膠芽腫,再発悪性神経膠腫に一定の治療効果を示しているが,プロトコール構成薬剤が我が国では神経膠腫に対して適応がないこと,入院治療が必要になる場合が稀ならず存在すること等が,今後の対応課題である。

<注意>
 カルボプラチン(carboplatin):適応外使用
 エトポシド(etoposide):適応外使用
 イホスファミド(ifosphamide):適応外使用

◆文  献
1) Yung WK, Albright RE, Olson J, et al. A phaseⅡ study of temozolomide vs. procarbazine in patients with glioblastoma multiforme at first relapse. Br J Cancer. 2000;83(5):588—593(レベルIb))
2) 西川 亮,渋井壮一郎,丸野元彦,他.初回再発の退形成性星細胞腫患者に対するTemozolomide単剤投与の有効性および安全性の検討 多施設共同第Ⅱ相試験.癌と化学療法.2006;33(9):1279—1285.(レベルⅡa)
3) Happold C, Roth P, Wick W, et al. ACNU—based chemotherapy for recurrent glioma in the temozolo-mide era. J Neurooncol. 2009;92(1):45—48.(レベルⅢ)
4) Wick W, Puduvalli VK, Chamberlain MC, et al. PhaseⅢ study of enzastaurin compared with lomustine in the treatment of recurrent intracranial glioblastoma. J Clin Oncol. 2010;28(7):1168—1174.(レベルⅠb)
5) Yung WK, Prados M, Levin VA, et al. Intravenous recombinant interferon beta in patients with recurrent malignant gliomas:a phaseⅠ/Ⅱ study. J Clin Oncol. 1991;9(11):1945—1949.(レベルⅡa)
6) Wakabayashi T, Kayama T, Nishikawa R, et al. A multicenter phaseⅠ trial of combination therapy with interferon—beta and temozolomide for high—grade gliomas(INTEGRA study):the final report. J Neurooncol. 2011;104(2):573—577.(レベルⅡb)
7) Brem H, Piantadosi S, Burger PC, et al. Placebo—controlled trial of safety and efficacy of intraopera-tive controlled delivery by biodegradable polymers of chemotherapy for recurrent gliomas. The Polymer—brain Tumor Treatment Group. Lancet. 1995;345(8956):1008—1012.(レベルⅠb)
8) De Bonis P, Anile C, Pompucci A, et al. Safety and efficacy of Gliadel wafers for newly diagnosed and recurrent glioblastoma. Acta Neurochir(Wien). 2012;154(8):1371—1378.(レベルⅢ)
9) Vredenburgh JJ, Desjardins A, Herndon JE 2nd, et al. Bevacizumab plus irinotecan in recurrent glioblastoma multiforme. J Clin Oncol. 2007;25(30):4722—4729.(レベルⅡa)
10) Vredenburgh JJ, Desjardins A, Herndon JE 2nd, et al. PhaseⅡ trial of bevacizumab and irinotecan in recurrent malignant glioma. Clin Cancer Res. 2007;13(4):1253—1259.(レベルⅡa)
11) Friedman HS, Prados MD, Wen PY, et al. Bevacizumab alone and in combination with irinotecan in recurrent glioblastoma. J Clin Oncol. 2009;27(28):4733—4740.(レベルⅡa)
12) Nagane M, Nishikawa R, Narita Y, et al. PhaseⅡ study of single—agent bevacizumab in Japanese patients with recurrent malignant glioma. Jpn J Clin Oncol. 2012;42(10):887—895.(レベルⅡa)
13) Iwamoto FM, Abrey LE, Beal K, et al. Patterns of relapse and prognosis after bevacizumab failure in recurrent glioblastoma. Neurology. 2009;73(15):1200—1206.(レベルⅢ)
14) Yamasaki F, Kurisu K, Aoki T, et al. Advantages of high b—value diffusion—weighted imaging to diagnose pseudo—responses in patients with recurrent glioma after bevacizumab treatment. Eur J Radiol. 2012;81(10):2805—10.(レベルⅢ)
15) Tolcher AW, Gerson SL, Denis L, et al. Marked inactivation of O6—alkylguanine—DNA alkyltransferase activity with protracted temozolomide schedules. Br J Cancer. 2003;88(7):1004—1011.(レベルⅡb)
16) Wick A, Felsberg J, Steinbach JP, et al. Efficacy and tolerability of temozolomide in an alternating weekly regimen in patients with recurrent glioma. J Clin Oncol. 2007;25(22):3357—3361.(レベルⅡa)
17) Brada M, Stenning S, Gabe R, et al. Temozolomide versus procarbazine, lomustine, and vincristine in recurrent high—grade glioma. J Clin Oncol. 2010;28(30):4601—4608.(レベルⅠb)
18) Perry JR, Bélanger K, Mason WP, et al. PhaseⅡ trial of continuous dose—intense temozolomide in recurrent malignant glioma:RESCUE study. J Clin Oncol. 2010;28(12):2051—2057.(レベルⅡa)
19) Yung WK, Mechtler L, Gleason MJ. Intravenous carboplatin for recurrent malignant glioma:a phaseⅡ study. J Clin Oncol. 1991;9(5):860—864.(レベルⅡa)
20) Jeremic B, Grujicic D, Jevremovic S, et al. Carboplatin and etoposide chemotherapy regimen for recurrent malignant glioma:a phaseⅡ study. J Clin Oncol. 1992;10(7):1074—1077.(レベルⅡa)
21) Franceschi E, Cavallo G, Scopece L, et al. PhaseⅡ trial of carboplatin and etoposide for patients with recurrent high—grade glioma. Br J Cancer. 2004;91(6):1038—1044.(レベルⅡa)
22) Aoki T, Mizutani T, Nojima K, et al. PhaseⅡ study of ifosfamide, carboplatin, and etoposide in patients with a first recurrence of glioblastoma multiforme. J Neurosurg. 2010;112(1):50—56.(レベルⅡa)
C 定位放射線照射
推 奨3
成人再発膠芽腫治療において局在した病変の制御を目的として,定位放射線照射を考慮してもよい。(推奨グレードC1)
解 説
 Combsらは,再発膠芽腫患者に対して定位放射線照射を行った結果を報告した1)(レベルⅡb)。初期診断時32例の患者の年齢中央値は56歳(33~76歳)であった。初回照射と定位放射線照射までの期間中央値は10カ月で,定位放射線照射として行われた線量中央値は,80%の等線量で15 Gy(10~20 Gy)であった。化学療法の併用はなかった。グレード2以上の急性毒性はなく,放射線壊死を含む重篤な晩期毒性は,観察されなかった。定位放射線照射後の生存期間中央値は10カ月,無増悪生存期間中央値は7カ月であった1)(レベルⅡb)。
 膠芽腫患者において,標準的放射線治療(60 Gy)が過去に施行されていたとしても,再発時には種々の放射線照射装置を用いた追加照射は可能である。しかし,再発膠芽腫に対する定位手術的照射あるいは定位放射線治療の前方視的なランダム化比較試験はこれまでに施行されておらず,大多数のデータは後方視的研究であり,さらにその適応が全身状態の良い患者,かつ小さな腫瘍径である場合に限定されているため2)(レベルⅢ),今後のランダム化比較試験を含めた詳細な検討が待たれるところである。
◆文  献
1) Combs SE, Widmer V, Thilmann C, et al. Stereotactic radiosurgery(SRS):treatment option for recurrent glioblastoma multiforme(GBM). Cancer. 2005;104(10):2168—2173.(レベルⅡb)
2) Romanelli P, Conti A, Pontoriero A, et al. Role of stereotactic radiosurgery and fractionated stereo-tactic radiotherapy for the treatment of recurrent glioblastoma multiforme. Neurosurg Focus. 2009;27(6):E8.(レベルⅢ)

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