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代表 |
氏 名 |
所属機関/専門分野 |
作成上の役割 |
○ |
中村 英夫 |
久留米大学医学部 脳神経外科/脳神経外科 |
DIPGの分子生物学的特徴
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篠島 直樹 |
熊本大学医学部 脳神経外科/脳神経外科 |
DIPGの分子生物学的特徴 |
○ |
師田 信人 |
東京都立小児総合医療センター 脳神経外科/脳神経外科 |
診断 |
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吉村 淳一 |
長野赤十字病院 脳神経外科/脳神経外科 |
診断 |
○ |
隈部 俊宏 |
北里大学医学部 脳神経外科/脳神経外科 |
外科的治療 |
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斉藤 竜太 |
東北大学 脳神経外科/脳神経外科 |
外科的治療 |
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吉村 淳一 |
長野赤十字病院 脳神経外科/脳神経外科 |
外科的治療 |
○ |
唐澤 克之 |
都立駒込病院 放射線診療科/放射線科 |
放射線治療 |
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藤井 元彰 |
都立駒込病院 放射線診療科/放射線科 |
放射線治療 |
○ |
中田 光俊 |
金沢大学医薬保健研究域医学系 脳・脊髄機能制御学/脳神経外科 |
薬物療法 |
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柳澤 隆昭 |
東京慈恵会医科大学 脳神経外科/脳神経外科 |
薬物療法 |
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鈴木 智成 |
埼玉医科大学国際医療センター 脳脊髄腫瘍科/脳神経外科 |
薬物療法 |
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山崎 文之 |
広島大学病院 脳神経外科/脳神経外科 |
薬物療法 |
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2. 作成過程
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2.1. 作成方針
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DIPGに対するエビデンスを整理し,診療アルゴリズムと診療ガイドラインを示すことによって,DIPG患者の生命予後と機能予後の改善を目的とする。
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2.2. 使用上の注意
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共通目次と共通項目参照
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2.3. 利益相反
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共通目次と共通項目参照
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2.4. 作成資金
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共通目次と共通項目参照
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2.5. 組織編成
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ガイドライン統括委員会: ガイドライン作成を統括する脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会は,2009年11月に日本脳腫瘍学会の内部組織として設置され,当時の理事と協力委員2名で構成された。その後,日本脳腫瘍学会の新理事が委員として加わった。また,対象疾患ごとに関連学会から協力委員の参加を得ている。
ガイドライン作成グループ: 脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会から選出された7名に加えて,新たに関連学会からの協力委員2名に参加いただいた。
システマティックレビューチーム: 重要臨床課題ごとにシステマティックレビュー(SR)チームを2~4名で編成した。DIPGが希少疾患であることを踏まえて,各チーム1人ずつガイドライン委員が兼任することとした。
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2.6. 作成過程
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準備: システマティックレビューチーム: 重要臨床課題ごとにシステマティックレビュー(SR)チームを2~4名で編成した。DIPGが希少疾患であることを踏まえて,各チーム1人ずつガイドライン委員が兼任することとした。
推奨作成とその決定:重要臨床課題(CQ)ごとに担当委員が草案を作成し,本ガイドライン作成グループが各CQに対する推奨内容について討議した。全委員を対象に,各CQに対する推奨について郵送により投票を行うこととした。2019年6月2日に投票方法を周知し,投票を行った。7月6日第43回脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会で投票結果が報告され,全ての推奨が承認された。
その他、共通目次と共通項目にも追加記載あり。
公開:2021年6月ホームページ上に公開した。
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2.7. 推奨の強さの提示方法・エビデンスレベル・推奨度(臨床的意義)について
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共通目次と共通項目参照
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3.公開後の取り組み
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共通目次と共通項目参照
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4.脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会(ガイドライン統括委員会)構成委員
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共通目次と共通項目参照
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5.日本脳腫瘍学会 脳腫瘍診療ガイドライン作成事務局
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共通目次と共通項目参照
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(Ⅴ)スコープ
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1.DIPGの基本的特徴
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1)臨床的特徴
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脳幹部でも主に橋に発生する浸潤性の脳実質内腫瘍で,小児期,特に学童期に好発し,生命予後が不良な腫瘍である。脳幹(主に橋)の中をびまん性・浸潤性に発育するため,大きな腫瘤を形成することはないが,複数の脳神経核や重要神経回路の機能障害をきたしながら病状が進行する。具体的には外眼筋麻痺や顔面神経の障害,錐体路徴候,体幹失調で発症し,急速に進行していくことが多い。
びまん性橋膠腫(diffuse intrinsic pontine glioma:DIPG)の名称は組織型による分類ではなく,腫瘍の発生部位と画像所見に基づくものである。すなわち典型例では神経徴候を含めた臨床学的所見と画像検査(MRI)で診断されることが多い。生検術によるものも含めて組織診断されることは少ないのが実情であるが,組織診断された場合にはびまん性星細胞腫であることが多い。最近の遺伝子解析の発達により,この腫瘍には特徴的な遺伝子異常が多いことが知られるようになった。2016年に世界保健機関(World Health Organizaion:WHO)から出版された脳腫瘍分類では,脳幹,視床といった脳の正中部に発生し,特定のヒストン遺伝子の異常を示す腫瘍をdiffuse midline gliomaと分類するようになり,腫瘍はWHO grade IVという最高悪性度に分類される。これまでにDIPGと分類されていた腫瘍のかなりの部分が,このdiffuse midline gliomaに相当すると考えられるが,diffuse midline gliomaの診断には遺伝子異常の確認が必要であり,今後に診断体系に変更が生じる可能性もある。これまでに知られているDIPGの遺伝子異常については「備考:DIPGの分子生物学的特徴」(後述)を参照されたい。
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註: |
本ガイドラインで扱う疾患「びまん性橋膠腫」は英語名diffuse intrinsic pontine gliomaに対応する。この名称は、橋から発生する腫瘍の中でも外惻(第4脳室内や小脳橋角部といった髄外)に突出するexophytic pontine gliomaと対をなすものとして命名されたものある。Exophytic pontine gliomaは時には外科的切除の対象となることもあるが、保存的に経過観察することも許容される予後良好な腫瘍で、橋自体が腫大する形で発育する「びまん性橋膠腫」とは臨床像も大きく異なる。後者の英語名に含まれる“intrinsic”は橋の髄内(実質内)にある腫瘍をさす単語であり、委員会内では英語名に忠実に和訳した「びまん性髄内橋膠腫」という腫瘍名も検討されたが、結論としては英語名を直訳しない「びまん性橋膠腫」を選んだ。ただし略語については文献や臨床の場でも使われることの多いDIPG(diffuse intrinsic pontine glioma)とした。
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2)疫学的特徴
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組織診断することなく神経徴候を含める臨床所見と画像検査(MRI)によって診断した後,放射線治療が行われることが多い。一時症状及び画像所見の改善が60~80%にみられるが,約6カ月で再発する。腫瘍に対する化学療法の有効性は示されていない。ステロイドによる一時的な症状の改善は期待できる。診断された時点で,生存できる期間がある程度決まるので,残された時間をどのように使うのか,状態悪化時に挿管・気管切開・呼吸器装着を行うかどうか,水頭症併発時の手術など姑息的治療を行うか,など患者や患者家族の予後不良な疾患の受け入れと,提供できる支援としては緩和医療の考えが必要となる。
治療早期から緩和医療の同時進行、あるいは緩和医療への移行も念頭に置きながら、姑息的治療の選択にあたっては家族の意思を尊重しつつ慎重に判断することが望まれる。
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3)診療の全体的な流れ
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生存期間中央値は12カ月以下,1年生存率は50%以下と生命予後が不良な腫瘍である。脳腫瘍の中でもっとも予後が悪い腫瘍の一つで,この20年間で治療効果による予後の改善がみられない腫瘍である。Brain Tumor Registry of Japan(2017)によれば,びまん性星細胞腫,退形成性星細胞腫のいずれも数%が橋に主座のある腫瘍であったとの統計があるが,本疾患は外科的手術の対象とならないことが多いと考えられるので,組織型の情報も含めた正確な情報を得ることは難しい。
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4)備考:DIPGの分子生物学的特徴
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2016年のWHO改訂により,脳腫瘍特にグリオーマにおいて,その分子遺伝学的プロファイルが診断に加味されるようになった。この改訂によって中枢神経系の中心に位置し,浸潤性の性格を持つ星細胞優位の腫瘍であり,H3F3AもしくはHIST1H3B/Cをコードする遺伝子においてK27Mの変異を有する悪性度の高いグリオーマをdiffuse midline gliomaと定義された。DIPGは,このdiffuse midline gliomaの代表的な腫瘍である。DIPGの80%近くの症例においてこのどちらかの遺伝子変異が認められ,この2つの遺伝子変異は相互排他的と報告されている1)。
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(1)予後因子に関して
2012年のKhuong-Quangらによる報告では,小児DIPG 42例においてK27M-H3変異が独立予後不良因子であった2)。2014年に症例を増やした小児DIPG 72例における解析でも同様の結果が得られており3),K27M-H3変異検索は組織学的gradingより予後予測因子として意義があると考えられる。
(2)分子標的治療に関して
①変異遺伝子に対する標的治療
2014年にBuczkowiczらは臨床データと組織サンプルが得られた小児DIPG 74例の遺伝子発現やメチル化などの網羅的解析を行い,3群にサブグループ化し(MYCN, silent, H3-K27M),それぞれの群で標的治療の可能性のあるいくつかの候補分子を同定した1)。特にH3-K27M ではACVR1変異が20%で認められ,この下流のSMAD経路は恒常的に活性化しており治療標的に成り得ると考察している。
また,2014年にTaylorらは26例のDIPGの約30%でみられたACVR1(ALK2)変異を標的とした治療の有望性について報告している4)。即ちACVR1変異のある患者由来DIPG細胞株を用いALK2 inhibitorにより抗腫瘍効果が得られたことを示している。
②エピジェネティクス変化に対する治療
2014年Ahsanらはエピジェネティクス解析を行い,成人GBMや小児の非脳幹GBMと比較して小児DIPGに特異的なエピジェネティクス変化を同定した5)。グローバルDNAメチル化としての5-methylcytosine(5mC)レベルは小児DIPGに限らず小児非脳幹GBMおよび成人GBMで有意に低下していた。一方,H3K27トリメチル化の有意な低下と,クロマチン活性に関与する5-hydroxymethylation of cytosine(5hmC)レベルの有意な上昇が,小児DIPG で特異的に認められた。治療としてヒストン脱メチル化阻害剤やヒストン脱アセチル化阻害剤などのエピジェネティクスmodifiersが期待されると結論付けている。さらにGrassoらはエピジェネティクスmodifiersによるDIPGの治療効果をin vitro,in vivoで検討している6)。患者由来DIPG細胞培養系で薬剤スクリーニングを行い,抗腫瘍効果のある薬剤としてヒストン脱アセチル化酵素阻害剤のpanobinostatを同定しin vitro,in vivoでその抗腫瘍効果を証明した。さらにヒストン脱メチル化阻害剤のGSK-J4を併用することで相乗的な抗腫瘍効果が得られたと報告している。
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文献
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1) |
Buczkowicz P, Hoeman C, Rakopoulos P, et al. Genomic analysis of diffuse intrinsic pontine gliomas identifies three molecular subgroups and recurrent activating ACVR1 mutations. Nat Genet. 2014;46(5):451-6. [PMID: 24705254] |
2) |
Khuong-Quang DA, Buczkowicz P, Rakopoulos P, et al. K27M mutation in histone H3.3 defines clinically and biologically distinct subgroups of pediatric diffuse intrinsic pontine gliomas. Acta Neuropathol. 2012;124(3):439-47. [PMID: 22661320] |
3) |
Buczkowicz P, Bartels U, Bouffet E, et al. Histopathological spectrum of paediatric diffuse intrinsic pontine glioma: diagnostic and therapeutic implications. Acta Neuropathol. 2014;128(4):573-81. [PMID: 25047029] |
4) |
Taylor KR, Mackay A, Truffaux N, et al. Recurrent activating ACVR1 mutations in diffuse intrinsic pontine glioma. Nat Genet. 2014;46(5):457-61. [PMID: 24705252] |
5) |
Ahsan S, Raabe EH, Haffner MC, et al. Increased 5-hydroxymethylcytosine and decreased 5-methylcytosine are indicators of global epigenetic dysregulation in diffuse intrinsic pontine glioma. Acta Neuropathol Commun. 2014;2:59. [PMID: 24894482] |
6) |
Grasso CS, Tang Y, Truffaux N, et al. Functionally defined therapeutic targets in diffuse intrinsic pontine glioma. Nat Med. 2015;21(6):555-9. [PMID: 25939062] |
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2.DIPGのスコープ作成
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1)診療ガイドラインがカバーする内容に関する事項
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(1) |
タイトル:びまん性橋膠腫(DIPG)の診療ガイドライン |
(2) |
目的:生命予後,機能予後の改善 |
(3) |
トピック:DIPGの生命予後,機能予後の改善 |
(4) |
想定される利用者,利用施設:小児脳腫瘍を診療する医療者や施設,患者・家族,ケアギバー(caregiver) |
(5) |
既存ガイドラインとの関係:日本および海外で既存のガイドラインは作成されていない。 |
(6) |
最重要課題
課題1:診断方法の確立
課題2:外科的治療の意義
課題3:放射線治療の改良
課題4:薬物療法の有効性
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(7) |
ガイドラインがカバーする範囲
初発治療時が小児がんとしてみなされる年齢(15歳未満の小児例に加え15歳~29歳のAYA世代。脳幹部に発生する腫瘍の中で病変が限局性のものや脳実質外にexophytic に発育する腫瘍とは予後が異なるので,これらは含まない。
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(8) |
CQリスト
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課題1:診断の確立に対するCQ |
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CQ1 |
臨床経過,臨床所見,画像検査からDIPGと診断することは推奨されるか?
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課題2:外科的治療の意義に対するCQリスト |
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CQ2 |
腫瘍切除は推奨されるか?
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CQ3 |
水頭症を生じた場合の対処はどうするか?
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課題3:放射線治療の意義に対するCQリスト |
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CQ4 |
放射線治療は行うべきか?
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CQ4-1 初発のDIPGに対し放射線治療は行うべきか。
CQ4-2 照射後再発時のDIPGに対し放射線治療は行うべきか。
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課題4:化学療法(従来の抗がん剤,分子標的治療薬)の有効性に対するCQリスト |
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CQ5 |
化学療法を行うべきか?
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CQ5-1 放射線治療との併用は推奨されるか?
CQ5-2 放射線治療後の化学療法は推奨されるか?
CQ5-3 再発(進行)時の化学療法は推奨されるか?
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2)システマティックレビューに関する事項
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(1) |
実施スケジュール
文献検索:1カ月
文献の選出:3カ月
エビデンス総体の評価と統合:4カ月
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(2) |
エビデンスの検索
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① |
エビデンスタイプ
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・ |
既存のガイドライン:DIPGに関してはなし
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・ |
個別研究論文:ランダム化比較試験はなく,非ランダム化比較試験,観察研究のみならず症例報告も検索対象にする。
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② |
データベース
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・ |
個別研究論文:主にPubMed,医中誌
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・ |
SR/MA論文について: Cochraneになし
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・ |
既存のガイドラインの検索: 不要
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③ |
検索方法
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・ |
介入の検索に関してはPICOフォーマットを用いる。
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④ |
検索対象期間
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・ |
すべてのデータベースで2018年7月まで
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(3) |
文献の選択基準,除外項目
採択条件を満たす観察研究がない場合,システマティックレビューは実施しない。
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(4) |
エビデンスの評価と統合の方法
エビデンス総体の強さの評価はMinds「診療ガイドライン作成マニュアル 2014」の方法に基づく。
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(Ⅵ)推奨
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課題1:診断、分類
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CQ1 臨床経過,臨床所見,画像検査からDIPGと診断することは推奨されるか?
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推奨
臨床経過,臨床所見,画像検査からDIPGと診断することを提案する。(推奨度2C)
注:DIPGの名称は組織型による分類ではなく,その一方,最新の脳腫瘍分類でのdiffuse midline glioma(診断確定に遺伝子解析を要する)に相当する腫瘍が大部分を占めると考えられる。生検術の是非については議論が分かれるが,この点については解説を参照されたい。
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解説
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1.CQの設定
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一般的に組織診断をもって最終診断とする脳腫瘍診療の中で,びまん性橋膠腫(DIPG)は特殊な腫瘍であり,腫瘍の発生部位と画像所見に基づく疾患群を指すことに留意する必要がある。そのためDIPGの診断が,必ずしも組織学的悪性度の診断に繋がるわけでない。適切な治療を行うための診断法の妥当性について検証を行う。
アウトカム:臨床経過,臨床所見,画像診断からDIPGと診断した場合の誤診率
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2.推奨の解説
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DIPG診断・治療の歴史において,Albrightによる1993年の論文が果たした役割は極めて大きい1)。定位的あるいは開頭術で手術を受けた45名のびまん性の脳幹部腫瘍全例がグリオーマであったことより,DIPGの診断はMRIで可能であり生検術は不要とされた。結果として,以後20年近くにわたり治療の大勢は外科的組織診断による裏付けなく進められることとなった。そのため,対象とする論文名にDIPGが冠されていても,現時点ではほとんどの文献において病理学的信憑性は曖昧であること念頭に置く必要がある。
DIPGでは放射線治療による一時的腫瘍縮小効果の他に有効な治療がなく予後も極めて不良であるため,DIPGの臨床経過・臨床所見,画像診断について,前方視的に検討したエビデンスの高い論文は存在しない。そのため,文献としては単一施設での症例集積による臨床研究・症例報告を対象に検討した。
(1)臨床経過・臨床所見
医療機関受診に至る典型的な臨床経過・臨床所見は,DIPGのScopeに記載されている通りである。水頭症を合併することは,通常は末期まで稀と考えられている。この臨床像について,DIPGの診断率と結びつけて検討した論文は認めなかった。逆にDIPGと診断されたにもかかわらず長期生存している5名(全192症例)について後方視的に検討した論文では,3歳以下2名,発症から診断まで6ヶ月以上3名,外転・顔面神経麻痺なし1名が臨床所見上の非典型所見として挙げられている2)。いずれも従来から指摘されていた非典型例の経過・所見であるが,典型例における頻度が記載されていないため,その信頼性を確定することは困難である。なお,後述の画像所見と関連するがこの5名中3名のMRI所見は典型的DIPGと診断されている。
(2)MRI所見
DIPGの典型的なMRI所見は一般的には以下の通りと考えられている。
1:橋中心部に内在し,橋横断面の50%以上を占める。
2:境界不鮮明
3:T1低信号域
4:T2高信号域
5:ガドリニウム造影効果は,あっても不整形
6:のう胞形成や橋表面(第4脳室底も含む)への露出を伴わない.
MRIが非腫瘍性脳幹部病変との鑑別に有効と論じた論文は認めたが3),DIPGの組織診断の有用性を直接検討した論文は認めなかった。CQ2との関係でMRIにおける脳幹部腫瘍におけるDIPGの頻度に触れた論文は症例集積として存在するが,MRIの質的診断価値(DIPGか非DIPG脳幹部腫瘍か)についての考察は行われていない。外科的組織診断とMRI所見を比較した論文は1編のみであった。Dellarettiらは定位的生検術を施行した44名についてMRI所見と組織像を比較検討した4)。画像所見をびまん性vs.局在性,造影効果ありvs. なし,で4群に分類し,44名中41名で組織診断が可能であり,うち37名(90.2%)がDIPGと診断されている。造影効果を伴う場合,DIPGの高悪性度群および非DIPGの頻度が高くなるため生検術の必要性を論文では訴えているが,同時にMRI所見のみでDIPGの診断・予後予測が困難であることを結果的に示唆する内容となっている。非DIPGに高悪性度腫瘍が多いことを論じた論文は認めたが,画像上の非典型的MRI所見を示した脳幹部腫瘍のうち,どれだけが非DIPGだったかの情報は記載されていなかった5)。
現在,DIPGにそぐわない非典型的MRI所見を示す脳幹部腫瘍に対する外科的組織診断の必要性は徐々に認識される傾向にあるが,非典型的所見かどうかが外科医間でどれだけ一致するかを調べた興味深い論文が認められた6)。脳幹部腫瘍16名の画像を86名の小児神経外科医が診断した。全員が典型的あるいはDIPGとして画像所見が典型的あるは非典型的であると診断が一致した症例は存在せず,75%以上がいずれかの診断で一致した症例が7例(43.8%)であった。DIPGの典型的MRI画像の知識はあっても,臨床現場でのMRI診断の難しさを反映した結果となっている。
以上をまとめると,MRIによりDIPGの存在・進展を診断することは可能であるが,治療法に結びつく組織学的・生物学的悪性度の診断を行うことは現時点では困難である,ということになる。
(3)その他の画像所見
MRI DTI(diffusion tensor imaging)あるいはspectroscopyを用いてDIPGの特徴を調べた報告は散見されるが,いずれも単発でありevidenceレベルは低い.またPETによる悪性度診断の報告もあるが,現時点では日常臨床への影響は考えにくいため,ガイドラインには含めなかった。
(4)組織診断
近年の分子生物学的診断法の進歩を反映し、生検術による組織診断の機運は高まっている。定位的生検術に関しては、新たな手術法の開発もありより安全に実施されるようになってきているが7)、脳腫瘍生検術における診断率は一般に95%前後であり永続的合併症発生率も1%ほど出現する。小児脳幹部腫瘍の定位的生検術の論文で多数例を扱った報告はまだ少ない8).生検術の是非については議論が分かれるが、組織診断・遺伝子解析が直ちに患児への治療という形で恩恵につながるわけではないことを配慮する必要がある.生検術実施にあたっては、確定診断に至らない可能性・合併症出現の可能性を良く説明した上で実施し、分子生物学的検索など臨床研究に役立てる場合には施設の倫理審査委員会の承諾を得る必要がある9)。
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システマティックレビュー結果
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# |
検索式 |
文献数 |
#1 |
brainstem glioma OR diffuse intrinsic pontine glioma |
6,412
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#2 |
diffuse intrinsic pontine glioma AND diagnosis |
209
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#3 |
brainstem glioma AND diagnosis |
3,409
|
#4 |
diffuse intrinsic pontine glioma AND MRI |
102
|
#5 |
#4 AND diagnosis |
92
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#6 |
#5 Filters: clinical trial |
12
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#7 |
#5 Filters: humans |
86
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検索wordはdiffuse intrinsic pontine glioma, brainstem glioma, diagnosis, MRIで行った。PubMed上でANDあるいはORで組み合わせたが,brainstem gliomaでは中脳腫瘍,低悪性度腫瘍も含まれるためdiffuse intrinsic pontine gliomaを主に文献検索を進めた。またdiagnosisだけでは論文が絞りきれないため,診断に有用な臨床所見の検索にclinical findingを加えた。さらに,推奨作成過程で生検術をCQ2でなくCQ1の診断で扱うことになったため,上記に加えてbiopsyも追加して文献検索を行った。その上で抄録をもとに第一次スクリーニングとして11文献を抽出しシステマティックレビューを行った。最終的にその中から9文献を用いて推奨を作成した。
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文献
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1) |
Albright AL, Packer RJ, Zimmerman R,et al. Magnetic resonance scans should replace biopsies for the diagnosis of diffuse brain stem gliomas: a report from the Children’s Cancer Group. Neurosurgery. 1993;33(6):1026-9. [PMID: 8133987] |
2) |
Jackson S, Patay Z, Howarth R, et al. Clinico-radiologic characteristics of long-term survivors of diffuse intrinsic pontine glioma. J Neurooncol.2013;114(3):339-44. [PMID: 23813229] |
3) |
Schumacher M, Schulte- Mönting J, Stoeter P, et al. Magnetic resonance imaging compared with biopsy in the diagnosis of brainstem diseases of childhood: a multicenter review. J Neurosurg. 2007;106(2 Suppl):111-9. [PMID: 17330536] |
4) |
Dellaretti M, Touzet G, Reyns N, et al. Correlation among magnetic resonance imaging findings, prognostic factors for survival, and histological diagnosis of intrinsic brainstem lesions in children. J Neurosurg Pediatr. 2011;8(6):539-43. [PMID: 22132909] |
5) |
Klimo P Jr, Nesvick CL, Broniscer A, et al. Malignant brainstem tumors in children, excluding diffuse intrinsic pontine gliomas. J Neurosurg Pediatr. 2016;17(1):57-65. [PMID: 26474099] |
6) |
Hankinson TC, Campagna EJ, Foreman NK, et al. Interpretation of magnetic resonance images in diffuse intrinsic pontine glioma: a survey of pediatric neurosurgeons. J Neurosurg Pediatr. |
7) |
Puget S, Beccaria K, Blauwblomme T, et al. Biopsy in a series of 130 pediatric diffuse intrinsic pontine gliomas. Childs Nerv Syst. 2015;31(10):1773-80. [PMID: 26351229] |
8) |
Rajshekhar V, Moorthy RK. Status of stereotactic biopsy in children with brain stem masses: insights from a series of 106 patients. Stereotact Funct Neurosurg. 2010;88(6):360-6. [PMID: 20861659] |
9) |
Walker DA, Liu J, Kieran M, et al; CPN Paris 2011 Conference Consensus Group. A multi-disciplinary consensus statement concerning surgical approaches to low-grade, high-grade astrocytoma and diffuse intrinsic pontine gliomas in childhood (CPN Paris 2011) using the Delphi method. Neuro Oncol. 2013;15(4):462-8. [PMID: 23502427] |
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課題2:外科的治療
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CQ2 腫瘍切除は推奨されるか?
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推奨
DIPGに対する腫瘍切除は行わないことを提案する。(推奨度2C)
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CQ3 水頭症に対する手術は推奨されるか?
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推奨
DIPG治療経過中に水頭症を生じた場合,水頭症手術を行うことを提案する。(推奨度2C)
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解説
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1.CQの設定
DIPGはその病変の局在から外科的切除術の対象とされないことが多い。ただし,腫瘍進行に伴う水頭症の合併が症状の悪化を招くことがあり,これに対応した治療は望まれるところである。外科的治療の適否については検証が必要である。
アウトカム:QOLの維持,生存期間の延長,入院期間の延長,外科治療による侵襲
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2.推奨の解説 CQ2
腫瘍摘出の意義と,生検術を行うか,行わないかの議論は別である。生検術は特に臨床試験を行う上で腫瘍の分子生物学的特徴を明確にし,さらに標的療法を行っていくためにも推奨する傾向にある1)。本項目ではあくまでもDIPGに対する腫瘍摘出の意義に関してまとめる。
第一にこれまで発表された論文,特に年代の古いものではDIPGの定義が曖昧であるために,DIPGに対する手術療法の意義に関して正確な結論を導き出すのが難しい。
1980年代後半にEpsteinから発表された形態学的なintrinsic brainstem gliomaの分類2, 3)は依然として頻用される。Epsteinらは1986年の発表ではfocal,diffuse,cervicomedullaryの3型に分類した2)が,1988年にはさらにcysticを加え最終的に4型に分類している3)。diffuse typeのbrainstem gliomaで橋に存在するものがDIPGに相当すると考えて,過去の論文の記述からDIPGに対する手術療法の意義を推測することになる。
Epsteinらの1988年の論文3)では,66例の小児intrinsic brain stem gliomaのうち27例がdiffuseであり,これらは全て組織学的に悪性であり,手術の恩恵はなく,1例は手術死亡し,全例が術後6~9ヶ月で死亡した。この結果からdiffuse intrinsic brainstem gliomaに対しての手術適応はないとしている。この症例群のかなりの部分がDIPGに相当すると予想されるが,想像の域を出ない。
Behnkeら4)は1987~1994年の連続30小児intra-axial endophytic tumor症例に対して手術を行った。術後ほとんどの症例で術前に認められた症状は悪化するが,2~3ヶ月で回復するとしている。しかし2例では術後2日目と2週間目に死亡している。血管腫(2例)・Grade 1の星細胞腫(6例)・Grade 2の乏突起膠腫(1例)・Grade 2の上衣腫(1例)の計10例は術後2年の段階で全例が生存している。一方,Grade 2以上の星細胞腫とPrimitive Neuroectodermal Tumor(PNET)はどんなに摘出率が高くとも全例死亡した。術前神経学的脱落症状のあるもの・pontine hypertrophy・Onion-skin-like changes between layers of normal brainstem parenchyma and tumor tissueが認められる症例は予後が悪いと報告している。開頭顕微鏡下手術は,MRIや生検ではわからない情報が得られるために有用というのが結論であるが,手術を推奨する考えに偏っていると評価せざるを得ない。
Wagnerら5)は1983~2001年にHIT-GBM databaseに登録された新規pontine glioma 153例を対象とした。場所はponsに限局されているが,diffuse, focalを分類していない。DIPGと推測される96例中6例(6.3%)に摘出術が行われた。結果的に手術・放射線・化学療法全てが行われた症例の予後は単変量解析で良好であった。手術の意義に関しては論議されていないが,Tableに記載されている"Larger tumor"(定義が一切記載されていない)に対する摘出術は,単変量解析にてp=0.048となっており予後良好因子と読み取ることはできる。
Yoshimuraら6)は1962~1996年の72例のbrainstem gliomaを検討した。64例がdiffuseで,その内40例に対して剖検が行われた。このうち2例が延髄,38例が橋に存在しているため,38例が真の意味でのDIPGに相当すると判断される。年齢は3~46(平均12.6)歳で,4例に部分摘出術以上,34例に対して生検もしくは摘出術は行われなかった。Tableから摘出例の生存期間中央値は44週,生検・非摘出例のそれは32週と計算され,log-rank testにてp=0.408で生存期間延長効果は認められなかった。
Behnke4),Wagner5)らの論文からintrinsic brainstem gliomaに対して摘出術がある程度の意味合いを有することが予想されるが,これらにはfocal intrinsic typeのbrainstem gliomaとpons以外に位置する腫瘍が含まれており,しかもそれがどの割合かは全く不明であるために純粋にDIPGに対する摘出効果を明らかにすることができない。
結論として,DIPGに対する可及的摘出術の意義を明らかにした論文は存在しないとまとめられる。また合併症発生率が高く,術後早期死亡例の報告も多い3,4)。したがってDIPGに対する腫瘍切除は推奨されない。
ただしこれは一般論であって,局所的な造影領域あるいは嚢胞成分の急速な拡大に対する摘出術等,各症例に応じた腫瘍切除が否定されるものではない。このような状況下での腫瘍摘出の有効性,問題点に関して検討を行った論文は過去一切存在しないためである。
CQ3
DIPGではおよそ15~60%の確率で,その診断確定から平均5ヶ月で水頭症を生ずると報告されている。DIPGに併発した水頭症に対して手術を行うべきであるかどうかに関しては,いずれも単施設の後方視的検討結果によるため,高いエビデンスレベルにはない。またその少ない対象疾患がDIPGに限定していない点にも注意が必要となる。
DIPGに合併した水頭症に対して,保存的療法のみでの治療は限界があり,脳室腹腔短絡術(ventriculoperitoneal shunt:VPS)もしくは内視鏡的第3脳室開窓術(endoscopic third ventriculostomy:ETV)の適応を検討する必要がある.Amanoらは,水頭症手術が行われた12例はそれ以外の4例に比較して長期生存したと報告している7)。Roujeauらは,51例のDIPGを対象とし,水頭症を生じた11例とそれ以外40例の生存期間を検討した8)。Roujeauらは,適切に治療されれば水頭症の有無は生存率に影響しなかったこと,腫瘍の進行状況と水頭症発生とも関係なかったこと,から水頭症が起きたらより積極的に治療すべきであるとしている8)。Amanoらも水頭症を神経兆候・画像診断から診断することは重要で,もし水頭症を生じた場合適切な水頭症手術を行うべきとしている7)。
DIPGの4~50%に存在する播種病変を伴った水頭症では,水頭症の原因はDIPGによって中脳水道から第4脳室への髄液流通障害による閉塞性水頭症だけではなく,吸収障害も伴った複数の要因に由来することが多いため,髄液を腹腔内へ流し出すことによって水頭症を改善させるVPSを優先的に選択する必要がある。播種病変が明らかになっていない場合,VPSとETVのいずれを選択するかの結論は出ていない。ETVにおいても施行直後から水頭症症状改善は得られ,体内に異物が挿入されないことから感染のリスクが低いという利点を強調する論文がみられる7,9,10)。一方でETV術後にVPSを必要とした症例が,Klimoらの報告9)では1/13例,Roujeauらの報告8)では1/2例と少なからず存在しており,上述の様に髄液吸収障害による水頭症発現機序も考慮すると最初からVPSを選択した方が良いという意見も存在する8)。なお,ETVを行う場合には脳底槽の変形・狭小化を念頭に置き,脳幹部や偏移した脳底動脈損傷を避けるように慎重かつ十分な開窓を症例毎に検討すべきとされている10)。また,非常に稀な現象ではあるが,VPSを介して腹腔内に腫瘍播種を生ずることも報告されている11)。このようにDIPG経過中に生ずる水頭症に対して水頭症手術を行うことは勧められているが,VPSを選択すべきであるか,ETVを選択すべきであるかは結論づけられていないのが現状である。
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システマティックレビュー結果
CQ2
<検索式>
"resection" "surgery"と言ったtermを加えて手術に関連したものだけをsearchするとあまりにも文献数が少なくなるために下記のようにDIPG全体をcoverするように全ての論文をpick upし,一次スクリーニングを行い,その後,二次スクリーニングで文献を絞った。
diffuse[All Fields] AND intrinsic[All Fields] AND ("pons"[MeSH Terms] OR "pons"[All Fields] OR "pontine"[All Fields]) AND ("glioma"[MeSH Terms] OR "glioma"[All Fields])
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文献
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1) |
Walker DA, Liu J, Kieran M, et al; CPN Paris 2011 Conference Consensus Group. A multi-disciplinary consensus statement concerning surgical approaches to low-grade, high-grade astrocytoma and diffuse intrinsic pontine gliomas in childhood (CPN Paris 2011) using the Delphi method. Neuro Oncol. 2013;15(4):462-8. [PMID: 23502427] |
2) |
Epstein F, McCleary EL. Intrinsic brain-stem glioma of childhood: surgical indications. J Neurosurg. 1986;64(1):11-5. [PMID: 3941334] |
3) |
Epstein F, Wisoff JH. Intrinsic brainstem tumors in childhood: surgical indications. J Neurooncol. 1988;6(4):309-17. [PMID: 3221258] |
4) |
Behnke J, Christen HJ, Mursch K, et al. Intra-axial endophytic tumors in the pons and/or medulla oblongata II. Intraoperative findings, postoperative results, and 2-year follow up in 25 children. Childs Nerv Syst. 1997;13(3):135-46. [PMID: 9137855] |
5) |
Wagner S, Warmuth-Metz M, Emser A, et al. Treatment options in childhood pontine gliomas. J Neurooncol. 2006;79(3):281-7. [PMID: 16598416] |
6) |
Yoshimura J, Onda K, Tanaka R, et al. Clinicopathological study of diffuse type brainstem gliomas: analysis of 40 autopsy cases. Neurol Med Chir(Tokyo). 2003;43(8):375-82. [PMID: 12968803] |
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CQ3
<検索式>
diffuse[All Fields] AND intrinsic[All Fields] AND ("pons"[MeSH Terms] OR "pons"[All Fields] OR "pontine"[All Fields]) AND ("glioma"[MeSH Terms] OR "glioma"[All Fields]) AND ("hydrocephalus"[MeSH Terms] OR "hydrocephalus"[All Fields])) OR (("brain stem"[MeSH Terms] OR ("brain"[All Fields] AND "stem"[All Fields]) OR "brain stem"[All Fields] OR "brainstem"[All Fields]) AND ("glioma"[MeSH Terms] OR "glioma"[All Fields]) AND ("hydrocephalus"[MeSH Terms] OR "hydrocephalus"[All Fields])
結果:252件
これを全て一次スクリーニングとし,マニュアルで二次スクリーニング文献を決定した。
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文献
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7) |
Amano T, Inamura T, Nakamizo A, et al. Case management of hydrocephalus associated with the progression of childhood brain stem gliomas. Childs Nerv Syst. 2002;18(11):599-604. [PMID: 12420118] |
8) |
Roujeau T, Di Rocco F, Dufour C, et al. Shall we treat hydrocephalus associated to brain stem glioma in children? Childs Nerv Syst. 2011;27(10):1735-9. [PMID: 21928037] |
9) |
Klimo P Jr, Goumnerova LC. Endoscopic third ventriculocisternostomy for brainstem tumors. J Neurosurg. 2006;105(4 Suppl):271-4. [PMID: 17328276] |
10) |
Kobayashi N, Ogiwara H. Endoscopic third ventriculostomy for hydrocephalus in brainstem glioma: a case series. Childs Nerv Syst. 2016;32(7):1251-5. [PMID: 27041375] |
11) |
Barajas RF Jr, Phelps A, Foster HC, et al. Metastatic Diffuse Intrinsic Pontine Glioma to the Peritoneal Cavity Via Ventriculoperitoneal Shunt: Case Report and Literature Review. J Neurol Surg Rep. 2015;76(1):e91-6. [PMID: 26251821] |
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課題3:放射線治療
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CQ4 放射線治療は行うべきか。
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疾患の治療時期に応じて,以下の項目に分けた解説を行った。
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推奨
CQ4-1 初発のDIPGに対して、放射線治療は行うべきか。
推奨 初発のDIPGに対して、放射線治療を行うことを推奨する。(推奨度1B)
CQ4-2 照射後再発時のDIPGに対して、放射線治療は行うべきか。
推奨 照射後再発時のDIPGに対して、放射線治療を行うことを提案する。(推奨度2C)
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解説
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1.CQの設定について
DIPGの治療の中心となる放射線治療について、その線量や照射範囲に関して検証を行う。
一般的に小児脳腫瘍に対する放射線治療は患児の年齢が3歳以上であるか否かによって方針が分かれるが、DIPGは3歳未満で診断されることは稀であるので、年齢に関する検証は行わない。
アウトカム:QOLの維持、生存期間の延長、入院期間の延長、外科治療による侵襲
2.推奨の解説
CQ4-1 初発のDIPGに対し放射線治療は行うべきか。
DIPGの予後は不良で、放射線治療を行わない場合の生存期間は約3.5~5カ月とされている1,2)。
DIPGが希少疾患であることから放射線治療の効果についても後方視的な観察研究が多いが、1991年には2~13歳のDIPGに対する放射線治療について、非照射群での全生存期間中央値が140日であったのに対して照射群では280日であったとの報告がある1)。1983年から2001年までドイツで行われた多施設共同前向きコホート研究HIT-GBMに登録された153例の治療成績を検討したWagnerらの報告によると、54Gy/30frの通常分割照射が行われた放射線治療群(125例)の全生存期間中央値は11カ月であったのに対して、非照射群(21例)では5カ月であり、放射線治療群において生存期間の有意な延長を認めている3)。
照射の分割様式については、過分割照射(hyperfractionated radiotherapy)と通常分割照射との比較、および寡分割照射(hypofractionated radiotherapy)と通常分割照射との比較が行われている。
POG-9239試験は過分割照射と通常分割照射を比較した多施設共同第III相ランダム化比較試験で、全130症例を過分割照射群(総線量70.2Gy、1.17Gy×2回/日)64例と通常分割照射群(総線量54Gy、1.8Gy/日)66例に振り分けて検討された。その結果、過分割照射群と通常分割照射群で、死亡までの期間(8カ月/8.5カ月)、event-free survival(5カ月/6カ月)いずれにおいても両群に有意な差はなく、過分割照射による生存率の改善は認められなかった4)。
寡分割照射と通常分割照射との比較については、Zaghloulらにより第Ⅲ相ランダム化比較試験が行われ、その結果が2014年に報告された5)。全71症例を寡分割照射群(39Gy/13fr、2.6週)35例と通常分割照射群(54Gy/30fr、6週)36例に振り分けて検討された。その結果、全生存期間は寡分割照射群では7.8カ月、通常分割照射では9.5カ月で、両群に有意な差はみられなかった。急性および晩期有害事象についても両群に差はなく、治療期間の短縮、治療負担の軽減から寡分割照射は有利ではないかと述べている。
現在では腫瘍部分に1~2cmのマージンをつけた部分に対して、一回線量1.8~2Gy、総線量54~60Gyの通常分割照射による放射線治療が標準治療とされており、放射線治療により症状の緩和のみならず、8~14カ月の生存を期待できる。
CQ4-2 照射後再発時のDIPGに対し放射線治療は行うべきか。
放射線療法は、照射後の再発例に用いても予後を改善する、という後方視的な報告が出されつつある。WolffらのMDアンダーソンがんセンターにおける後方視的な解析によれば1)、化学療法が大部分を占める26種類のレジメンで61回の治療を試みた31例の再発DIPGのうち、初発部位に対し再照射が行われた7例の奏効率は57%(4/7)で、再照射が行われなかった群の奏効率10%(5/52)に比較して有意に高く(p=0.008)、また他のレジメンに比べて、無イベント生存期間が有意に長かった(p=0.017)。彼らの用いた放射線の総線量は18~20 Gyで、grade 3以上の有害事象は1例も認められなかった。
Lassalettaらのカナダからの後方視的な報告によれば2)、2011~2016年に治療したDIPGの再照射症例16例と、過去の再照射を行わなかった症例46例を比較して、生存期間の中央値が有意に延長した(218日対92日、p=0.0001)。彼らの放射線の総線量は21.6~36Gyと比較的高い線量を用いたが、30 Gy/10 frを投与した1例に橋の壊死が生じた。
またJanssensらの、ヨーロッパの7カ国の施設から集積された小児のDIPGの照射後再発例についてのマッチドコホート研究3)では、再照射を行った31例と行わずにBSCで観察した39例を比較すると全生存割合の中央値が13.7カ月対10.4カ月(p=0.04)と、有意に再照射群で改善していた。そして再照射を行った31例中24例で症状の軽快が認められた。またgrade 3以上の有害事象は1例も認められなかった。照射の線量は6例の30 Gy/10回の照射例以外は18~20 Gyの通常分割で行われた。 以上より、未だ前向き研究の報告はないものの、放射線療法はDIPGの放射線治療後の再発例に対しても、生存期間の延長効果をもたらし、かつ有害事象も許容範囲内であることから、治療手段として用いることを提案する。
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システマティックレビュー結果
CQ4-1
<検索式>
((((((((infant or child or adolescent or pediatric)) AND glioma) AND (pons or pontine or medulla or midbrain or brain stem))) AND radiotherapy) AND English[Language]) NOT review[Publication Type]) NOT case reports[Publication Type]
これを全て一次スクリーニングとし、マニュアルで二次スクリーニング文献を決定した。尚、DIPGについては放射線治療が治療の中心であったため、解説文の作成にあたり対象として放射線非照射群の予後に関する情報を得るために以下の検索式で文献を集め(総数24)、マニュアルで二次スクリーニング文献を決定した(文献1および2)。
(((infant or child or adolescent or pediatric) AND glioma) AND (pons or pontine or medulla or midbrain or brain stem))) AND natural history
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文献
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1) |
Langmoen IA, Lundar T, Storm-Mathisen, et al. Management of pediatric pontine gliomas. Childs Nerv Syst. 1991; 7(1):13-15. [PMID: 2054800] |
2) |
Sun T, Wan W, Wu Z, et al. Clinical outcomes and natural history of pediatric brainstem tumors: with 33 cases follow-ups. Neurosurg Rev. 2013; 36(2): 311-9; discussion 319-20. [PMID: 23138258] |
3) |
Wagner S, Wamuth-Metz M, Emser A, et al. Treatment options in childhood pontine gliomas. J Neurooncol. 2006; 79(3):281-7. [PMID: 16598416] |
4) |
Mandell LR, Kadota R, Freeman C, et al. There is no role for hyperfractinated radiotherapy in the management of children with newly diagnosed diffuse intrinsic brainstem tumors: results of a pediatric oncology group phase III trial comparing conventional vs. hyperfractionated radiotherapy. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 1999; 43(5):959-64. [PMID: 10192340] |
5) |
Zaghloul MS, Eldebawy E, Ahmed S, et al. Hypofractionaed conformal radiotherapy for pediatric diffuse intrinsic pontine glioma (DIPG): A randomized controlled trial. Radiother Oncol. 2014; 111(1):35-40. [PMID: 24560760] |
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CQ4-2
<検索式>
これを全て一次スクリーニングとし (26編)、マニュアルで二次スクリーニング文献を決定した。
(((infant or child or adolescent or pediatric) AND glioma) AND (pons or pontine or medulla or midbrain or brain stem))) AND re-irradiation
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文献
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1) |
Wolff JE, Rytting ME, Vats TS, et al. Treatment of recurrent diffuse intrinsic pontine glioma: the MD Anderson Cancer Center experience. J Neurooncol. 2012; 106(2):391-7. [PMID: 21858608] |
2) |
Lassaletta A, Strother D, Laperriere N, et al. Reirradiation in patients with diffuse intrinsic pontine gliomas: The Canadian experience. Pediatr Blood Cancer 2018 65(6): e26988. [PMID: 29369515] |
3) |
Janssens GO, Gandola L, Bolle S, et al. Survival benefit for patients with diffuse intrinsic pontine glioma (DIPG) undergoing re-irradiation at first progression: A matched-cohort analysis on behalf of the SIOP-E-HGG/DIPG working group. Eur J Cancer. 2017 ;73:38-47. [PMID: 28161497] |
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課題4:薬物治療
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CQ5 化学療法を行うべきか
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推奨
DIPGに対して化学療法を行わないことを提案する。(推奨度2C)
なお、疾患の治療時期に応じて、以下の項目に分けた解説を行った
CQ5-1 放射線治療との併用について
CQ5-2 放射線治療後の化学療法について
CQ5-3 再発(進行)時の化学療法について
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解説
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1.CQの設定について
課題4:薬物療法(抗がん剤、分子標的治療薬など)の有効性
DIPGの治療における抗腫瘍薬の効果についてはエビデンスが少ないのが現状であるが、一般的な神経膠腫に対する薬物治療の進歩が目立っている中で、DIPGに対する薬物治療の意義を検証する。
アウトカム:QOLの維持、生存期間の延長、入院期間の延長、有害事象の発現
2.推奨の解説
CQ5-1 放射線治療との併用について
DIPGに対する標準治療は54~60Gyの放射線療法であり、1年生存率は45%程度とされている。単独放射線治療よりも良好な予後を獲得するために様々な薬剤併用放射線療法が報告されてきた。
プラチナ製剤やアルキル化剤等の併用についてWagnerは1983~2001年にHIT-GBM(‘‘Hirntumor-Glioblastoma multiforme’’)データベースに登録されたDIPG153例に対し後方視的に解析している。治療として単独放射線治療あるいは放射線治療と化学療法(エトポシド+トロフォスファミド、カルボプラチン+エトポシド+イフォスファミド+(ビンクリスチン))の併用が行われた。放射線治療単独群(17例)と放射線化学療法群(88例)の全生存期間中央値は、順に9カ月、11カ月であり放射線化学療法群が延長した(P=0.03)。また、腫瘍径が大きいDIPG(橋の長さの50%以上)に対しては、放射線治療および化学療法がともに予後延長に寄与していた1)。Koronesは、Children’s Oncology Group(COG)9836に登録された30例のDIPGに対して放射線治療とエトポシド、ビンクリスチン併用療法を施行し解析している。全生存期間中央値9カ月、1年生存率27%、2年生存率3%の結果であり、化学療法併用による予後延長効果は得られなかった2)。また、放射線治療とテモゾロミド併用療法に関して報告がある。Cohenは、63例の脳幹グリオーマに対し放射線治療とテモゾロミドを併用し全生存期間中央値9.6カ月であったと報告している3)。Baileyが報告した43例の脳幹グリオーマに対する放射線治療とテモゾロミド併用療法では、全生存期間中央値9.5カ月であった4)。これらの報告では放射線治療にテモゾロミドを併用しても予後延長効果には寄与しない可能性が高いと述べられている。
放射線治療に分子標的薬を併用した臨床試験についても報告されている。Pollackは43例の脳幹グリオーマに対し放射線とゲフィチニブ(EGFRチロシンキナーゼ阻害薬)併用療法を施行した結果、1年および2年生存率は56.4%、19.6%であった。2年生存率19.6%は他の臨床試験より良い結果でありゲフィチニブに感受性が高い集団が含まれている可能性が示唆されている5)(レベルⅡb)。Macyは、25例の脳幹グリオーマに対し放射線治療にセツキシマブ(抗EGFR抗体薬)を併用した結果、無増悪生存期間中央値7.1カ月、1年無増悪生存率29.6%、全生存期間中央値12.1カ月であった。セツキシマブの併用は、無増悪期間の延長には寄与するかもしれないが全生存期間の延長には寄与せず、今後、脳幹グリオーマに対するセツキシマブを使用した臨床試験は施行しない方針とされた6)。
Hummelは、15例の脳幹グリオーマに対し放射線とベバシズマブ(抗VEGF抗体)併用療法を施行した。無増悪生存期間中央値8.2カ月、全生存期間中央値10.4カ月でありベバシズマブ併用による予後延長効果は期待できないと報告した7)。
その他の併用薬剤として、12例の脳幹グリオーマに対し放射線とサリドマイドの併用療法が報告されている。結果は全生存期間中央値9カ月であり予後延長効果は認められなかった8)。
一方、放射線治療前に化学療法を施行する臨床試験の報告がされている。Jenningsは、化学療法後に多分割放射線治療を行うChildren’s Cancer Group (CCG)の第Ⅱ相試験(CCG-9941)を報告している。63例の脳幹グリオーマに対し化学療法(レジメンA:カルボプラチン+エトポシド+ビンクリスチンもしくはレジメンB:シスプラチン+シクロフォスファミド+エトポシド+ビンクリスチン)を先行し放射線治療(72Gy)を行った。レジメンAとレジメンBの全生存期間中央値に差はなく、両群ともにヒストリカルコントロールとの差も認めなかった。したがって、化学療法先行の有効性は期待できないと述べられている9)。FrappazはBSG(Brain Stem Glioma)98 clinical trialの最終レポートを報告している。BSG 98 プロトコールは、ニトロソウレア(BCNU)+シスプラチン+大量メトトレキセートを3カ月毎に施行し、病変の進行時に放射線治療を追加する内容である。全生存期間中央値は、ヒストリカルコントロール群9ヶ月に対しBSG98群は17カ月に延長した(p=0.02)。ただし、化学療法の毒性が強く入院期間延長や感染症リスクがあるため患者本人および家族とよく相談すべきであると指摘している10)。Gokce-Samarは、25例の脳幹グリオーマに対しBSG98プロトコール群(16例)と分子標的薬群(9例)を比較している。分子標的薬はエルロチニブ(EGFRチロシンキナーゼ阻害剤)もしくはシレンジタイド(インテグリン阻害剤)が使用された。BSG98プロトコール群の全生存期間中央値は16.1カ月で分子標的薬群の8.8カ月よりも明らかに延長した(p=0.0003)。この結果からBSG98プロトコールが脳幹グリオーマに対し有効性を期待できると述べられている11)。
現時点では放射線治療に併用する薬剤の予後延長効果については肯定的な結果よりも否定的な結果が多く、確実に効果が期待できる薬剤はないと判断する。ただし、放射線治療と併用しないBSG98プロトコールは化学療法の毒性が強いながらも、脳幹グリオーマの予後延長効果に寄与する可能性がある。
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注: |
エトポシド、トロフォスファミド、カルボプラチン、イフォスファミド、ゲフィチニブ、セツキシマブ、サリドマイド、メトトレキセート、エルロチニブ、シレンジチドは適用外使用
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CQ5-2 放射線治療後の化学療法について
Broniscerは、多施設共同研究で放射線治療後(55.8Gy)の脳幹グリオーマ33例に対するテモゾロミドの効果を検討している。テモゾロミドは200mg/m2を5日間投与、23日休薬を1サイクルとして12サイクル行われた。無増悪生存期間中央値は8.8カ月、1年無増悪生存割合27%、全生存期間中央値12カ月、1年生存割合48%であり、ヒストリカルコントロールを上回る結果は得られず、テモゾロミド維持療法の有効性は否定されている1)。Kimは新規脳幹グリオーマに対し、放射線治療にテモゾロミドとサリドマイド併用療法を加え、維持療法としてテモゾロミド(150~200mg/m2)とサリドマイド(150~600mg/m2) 併用療法を行っている。評価された脳幹グリオーマ12例の無増悪期間中央値7.2カ月、全生存期間中央値12.7カ月であり放射線治療単独療法と不変であり、テモゾロミドとサリドマイド併用維持療法の有効性は認められなかった。しかし、1年生存率は58%であり、他の臨床試験の1年生存率34.4%よりも高い結果であり、副作用は主にコントロール可能な骨髄抑制のみであったため今後症例数を増やし、再検討が必要と報告している2)。Porkholmは、脳幹グリオーマ41例に対し放射線治療後サリドマイド(1~6mg/kg)、エトポシド(20~70 mg/m2)、セレコキシブ(230 mg/m2もしくは7mg/kg)の3剤併用維持療法を施行し、コントロール群8例と比較している。3剤併用維持療法群とコントロール群の全生存期間中央値はそれぞれ12カ月、10.5カ月で有意差は認めなかったが、3剤併用療法群では7名の長期生存例(24~60カ月)を認めた。したがって、一部の症例には有効性があるため、大規模な症例数での再検討が必要であると述べている3)。
現時点では、初期治療後の維持化学療法として有効性が確立された治療方法はない。しかし、各臨床試験では少数の有効症例も認めているため大規模な臨床試験を展開し、有効症例/無効症例の分子生物学的背景の解析が必要と考えられる。
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注: |
サリドマイド、エトポシド、セレコキシブは適用外使用
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CQ5-3 再発(進行)時の化学療法について
再発および進行性脳幹グリオーマに対する治療は期待できず緩和医療の導入が一般的とされているが、化学療法を行った複数の臨床試験結果が報告されている。
・トポテカン(本邦では一般名ノギテカン)
小児再発性中枢神経腫瘍 (計41例) に対するトポテカン(topotecan)単剤療法の有効性を評価した。トポテカンは、1.0mg/m2/日 (3日間) を3週間ごとに投与された。19例の脳幹腫瘍に対し、stable disease 4例(21%)、progressive disease 15例(79 %)の結果であり抗腫瘍効果は認めなかった。グレード4の有害事象は、好中球減少(32%)、血小板減少(23%)であった1)。
・テモゾロミド
113例の再発性中枢神経腫瘍(脳幹グリオー16例)を対象としてテモゾロミド180mg/m2/日(脳脊髄照射既往あり)もしくは200mg/m2/日(脳脊髄照射既往なし)の用量で5日間投与-23日間休薬のサイクルとして単剤療法の効果を評価した。脳幹グリオーマに対する結果は、評価不能な1例を除き15例全例で効果なく5サイクルまでに腫瘍進行を認めた。グレード3/4の有害事象は好中球減少(19%)と血小板減少(25%)であった2)。DNA修復酵素[O6-methylguanine-DNA methyltransferase(MGMT)]はテモゾロミドの抵抗性に関連しており、WarrenらはMGMTを不活化するO6-benzylguanine(O6-BG)とテモゾロミドの併用療法を報告している。再発性脳幹グリオーマ16例に対しO6-BG 120 mg/m2+テモゾロミド 75 mg/m2 が投与された。併用療法の抗腫瘍効果はなく、6カ月の無増悪性生存率は0%であり有効性は認めなかった3)。
・第3世代白金製剤 オキサリプラチン
再発性固形腫瘍124例(脳幹グリオーマ10例)に対し、オキサリプラチン(3週間ごとに130 mg/m2 静脈投与)の効果が評価された。 脳幹グリオーマで評価可能な9例中、stable disease 1例、progression disease/no response 8例でありオキサリプラチンの有効性は認めなかった4)。
・分子標的薬
再発性脳幹グリオーマを対象としてRas経路を抑制するファルネシルトランスフェラーゼ阻害薬チピファルニブ(tipifarnib)、VEGFを阻害するベバシズマブ(bevacizumab)、EGFRを阻害するニモツズマブ(nimotuzumab)の報告がされている。Tipifarnib(200 mg/m2)が35例の再発脳幹グリオーマに投与された結果、partial response 1例、stable disease 4例であり6カ月無増悪生存期間は3%であった。したがって、tipifarnibはほとんど効果がないと結論付けられた5)。ベバシズマブは、16例の再発性脳幹グリオーマに対しstable disease 5例(3カ月以上)であり、効果が乏しい結果であった6)。ニモツズマブが44例の再発進行性脳幹グリオーマに投与された。評価可能であった19例に対しpartial response 2例、stable disease 6例、progression disease 11例であり、ニモツズマブ導入後からの生存期間中央値は3.2カ月であった。また、partial response/stable disease群とprogression disease群の生存期間中央値はそれぞれ282日と146日であるが統計学的有意差は認めなかった (p=0.06)。この結果からニモツズマブにより中等度の有効性が期待される脳幹グリオーマが存在することが示された7)。
その他、Wolffらは自施設であるMDアンダーソン癌センターで加療された31例の再発性脳幹グリオーマに対する治療について後方視的に解析している。エトポシド、テモゾロミド、シスプラチンなどの化学療法の効果は認められず、腫瘍縮小効果および無増悪性期間の延長に寄与した治療方法は、再放射線治療(20Gy)であった8)。
以上より現時点では明らかに治療効果を示す薬剤は同定されていない。
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注:トポテカン、O6ベンジルグアニン、オキサリプラチン、チピファルニブ、ニモツズマブは適用外使用
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CQ5-1、5-2のシステマティックレビュー結果
<検索式>
(((((((((infant or child or adolescent or pediatric)) AND glioma) AND (pons or pontine or medulla or midbrain or brain stem)) NOT (relapse or recurrence or refractory)) AND chemotherapy) AND ("1995/01"[Date - Publication] : "2017/08"[Date - Publication])) AND English[Language]) NOT review[Publication Type]) NOT case reports[Publication Type]
結果:46件
これを全て一次スクリーニングとし、マニュアルで二次スクリーニング文献を決定した。
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<二次スクリーニング文献>
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CQ5-1 |
1) |
Wagner S, Warmuth-Metz M, Emser A, et al. Treatment options in childhood pontine gliomas. J Neurooncol. 2006 ;79(3):281-7. [PMID: 16598416] |
2) |
Korones DN, Fisher PG, Kretschmar C, et al. Treatment of children with diffuse intrinsic brain stem glioma with radiotherapy, vincristine and oral VP-16: a Children's Oncology Group phase II study. Pediatr Blood Cancer. 2008 ;50(2):227-30. [PMID: 17278121]. |
3) |
Cohen KJ, et al. Temozolomide in the treatment of children with newly diagnosed diffuse intrinsic pontine gliomas: a report from the Children's Oncology Group. Neuro Oncol. 2011 ;13(4):410-6. [PMID: 21345842] |
4) |
Bailey S, Howman A, Wheatley K, et al. Diffuse intrinsic pontine glioma treated with prolonged temozolomide and radiotherapy--results of a United Kingdom phase II trial (CNS 2007 04). Eur J Cancer. 2013 ;49(18):3856-62. [PMID: 24011536] |
5) |
Pollack If, Stewart CF, Kocak M, et al. A phase II study of gefitinib and irradiation in children with newly diagnosed brainstem gliomas: a report from the Pediatric Brain Tumor Consortium. Neuro Oncol. 2011 ;13(3):290-7. [PMID: 21292687] |
6) |
Macy ME, Kieran MW, Chi SNet al. A pediatric trial of radiation/cetuximab followed by irinotecan/cetuximab in newly diagnosed diffuse pontine gliomas and high-grade astrocytomas: A Pediatric Oncology Experimental Therapeutics Investigators' Consortium study. Pediatr Blood Cancer. 2017 ;64(11): 10.1002/pbc.26621 . [PMID: 28544128] |
7) |
Hummel TR, Salloum R, Drissi R, et al. A pilot study of bevacizumab-based therapy in patients with newly diagnosed high-grade gliomas and diffuse intrinsic pontine gliomas. J Neurooncol. 2016 ;127(1):53-61. [PMID: 26626490] |
8) |
Turner CD, Chi S, Marcus KJ, et al. Phase II study of thalidomide and radiation in children with newly diagnosed brain stem gliomas and glioblastoma multiforme. J Neurooncol. 2007 ;82(1):95-101. [PMID: 17031553] |
9) |
Jennings MT, Sposto R, Boyett JM, et al. Preradiation chemotherapy in primary high-risk brainstem tumors: phase II study CCG-9941 of the Children's Cancer Group. J Clin Oncol. 2002 ;20(16):3431-7. [PMID: 12177103] |
10) |
Frappaz D, Schell M, Thiesse P, et al. Preradiation chemotherapy may improve survival in pediatric diffuse intrinsic brainstem gliomas: final results of BSG 98 prospective trial. Neuro Oncol. 2008 ;10(4):599-607. [PMID: 18577561] |
11) |
Gokce-Samar Z, Beuriat PA, Faure-Conter C, et al. Pre-radiation chemotherapy improves survival in pediatric diffuse intrinsic pontine gliomas. Childs Nerv Syst. 2016 ; 32 (8):1415-23. [PMID: 27379495] |
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CQ5-2 |
1) |
Broniscer A, Iacono L, Chintagumpala M, et al. Role of temozolomide after radiotherapy for newly diagnosed diffuse brainstem glioma in children: results of a multiinstitutional study (SJHG-98). Cancer. 2005 ;103(1):133-9. [PMID: 15565574] |
2) |
Kim CY, Kim SK, Phi JH, et al. A prospective study of temozolomide plus thalidomide during and after radiation therapy for pediatric diffuse pontine gliomas: preliminary results of the Korean Society for Pediatric Neuro-Oncology study. J Neurooncol. 2010 ;100(2):193-8. [PMID: 20309719] |
3) |
Porkholm M, Valanne L, Lönnqvist T, et al. Radiation therapy and concurrent topotecan followed by maintenance triple anti-angiogenic therapy with thalidomide, etoposide, and celecoxib for pediatric diffuse intrinsic pontine glioma. Pediatr Blood Cancer. 2014 ;61(9):1603-9. [PMID: 24692119] |
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CQ5-3のシステマティックレビュー結果
<検索式>
(((((((((infant or child or adolescent or pediatric)) AND glioma) AND (pons or pontine or medulla or midbrain or brain stem)) AND (relapse or recurrence or refractory)) AND chemotherapy) AND ("1995/01"[Date - Publication] : "2017/08"[Date - Publication])) AND English[Language]) NOT review[Publication Type]) NOT case reports[Publication Type])
結果:24件
これを全て一次スクリーニングとし、マニュアルで二次スクリーニング文献を決定した。
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<二次スクリーニング文献>
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CQ5-3 |
1) |
Kadota RP, Stewart CF, Horn M, et al. Topotecan for the treatment of recurrent or progressive central nervous system tumors - a pediatric oncology group phase II study. J Neurooncol. 1999;43 (1) : 43-7. [PMID: 10448870] |
2) |
Nicholson HS, Kretschmar CS, Krailo M, et al. Phase 2 study of temozolomide in children and adolescents with recurrent central nervous system tumors: a report from the Children's Oncology Group. Cancer. 2007;110(7):1542-50. [PMID: 17705175] |
3) |
Warren KE, Gururangan S, Geyer JR, et al. A phase II study of O6-benzylguanine and temozolomide in pediatric patients with recurrent or progressive high-grade gliomas and brainstem gliomas: a Pediatric Brain Tumor Consortium study. J Neurooncol. 2012;106(3):643-9. [PMID: 21968943] |
4) |
Beaty O 3rd, Berg S, Blaney S, et al. A phase II trial and pharmacokinetic study of oxaliplatin in children with refractory solid tumors: a Children's Oncology Group study. Pediatr Blood Cancer. 2010 ;55(3):440-5. [PMID: 20658614] |
5) |
Fouladi M, Nicholson HS, Zhou T, et al. A phase II study of the farnesyl transferase inhibitor, tipifarnib, in children with recurrent or progressive high-grade glioma, medulloblastoma/primitive neuroectodermal tumor, or brainstem glioma: a Children's Oncology Group study. Cancer. 2007;110(11):2535-41. [PMID: 17932894] |
6) |
Gururangan S, Chi SN, Young Poussaint T, et al. Lack of efficacy of bevacizumab plus irinotecan in children with recurrent malignant glioma and diffuse brainstem glioma: a Pediatric Brain Tumor Consortium study. J Clin Oncol. 2010;28(18):3069-75. [PMID: 20479404] |
7) |
Bartels U, Wolff J, Gore L, et al. Phase 2 study of safety and efficacy of nimotuzumab in pediatric patients with progressive diffuse intrinsic pontine glioma. Neuro Oncol. 2014;16(11):1554-9. [PMID: 24847085] |
8) |
Wolff JE, Rytting ME, Vats TS, et al. Treatment of Recurrent Diffuse Intrinsic Pontine Glioma, Experience of MD Anderson Cancer Center. J Neurooncol. 2012;106(2):391-7. [PMID: 21858608] |
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