CQ3 成人初発膠芽腫に対する化学療法の種類と意義はどのようなものがあるか?
A テモゾロミド
推 奨1
18歳以上70歳以下の成人初発膠芽腫患者に対して,手術後,経口内服薬テモゾロミドを放射線治療期間中,ならびに放射線終了後投与する(Stuppプロトコール)。(推奨グレードA)
解 説
 テモゾロミド(temozolomide)は経口薬として腸管吸収性にすぐれた第2世代のアルキル化薬で,さらに血液脳関門を通過しやすいという利点を持つ。2005年に発表された成人初発膠芽腫に対するランダム化比較試験の結果により,その有効性が証明され,膠芽腫に対する標準治療薬と位置づけられた1)(レベルⅠb)。
 上記試験はEuropean Organization for Research and Treatment of Cancer(EORTC)とNational Cancer Institute of Canada(NCIC)両グループを中心とした多施設共同試験であり,18歳以上70歳以下の成人初発膠芽腫573例に対して手術後,放射線単独治療(60 Gy)を標準治療(control arm)とし,放射線治療(60 Gy)+テモゾロミド併用化学療法とそれに続くテモゾロミド補助化学療法を試験治療とするランダム化比較試験である。
 テモゾロミドの具体的な投与方法は,
 ① 放射線治療期間中,テモゾロミド75 mg/m2を放射線治療終了日まで49日間を上限として連日内服(併用化学療法)。
 ②放射線治療終了日から4週間の休薬期間を設け,以下の維持化学療法を開始する。
 ③ テモゾロミド150~200 mg/m2を5日間内服・23日間休薬(5—day on/23—day off)とし,28日を1サイクルとした維持化学療法を6サイクル行う。
 維持化学療法中のテモゾロミド投与量は,1サイクル時は150 mg/m2/日とし,1サイクル中に血液毒性を認めなかった場合,2サイクル以降は200 mg/m2/日に増量を行うこととした(Stuppプロトコール)。この結果,放射線単独治療群(286例)とStuppプロトコール群(287例)の生存期間中央値はそれぞれ,12.1カ月(95%CI:11.3—13.0)と14.6カ月(95%CI:13.2—16.8)であり,有意差をもってStuppプロトコール群の全生存期間延長を認めた(HR=0.63,95%CI:0.52—0.75,p<0.001)。血液毒性は標準治療群と比べると,試験治療群において有害事象共通用語規準(Common Terminology Criteria for Adverse Events:CTCAE)でグレード3以上の血液毒性の頻度が数%増える程度であった。非血液毒性のなかでは倦怠感が最も多く観察されたが,その出現頻度は標準治療群26%,試験治療群33%と両群で有意差はなかった。その他の非血液毒性においても大きな差を認めなかった。有害事象については両群で特記すべき差異はなく,Stuppプロトコールは安全性の高い治療方法であると考えられた。
 この臨床試験に関しては,最近長期経過観察の結果が報告された2)(レベルⅠb)。放射線単独治療群とStuppプロトコール群の生存割合はそれぞれ,2年:10.9% vs 27.2%,3年:4.4% vs 16.0%,4年:3.0% vs 12.1%。5年:1.9% vs 9.8%であり,Stuppプロトコール群で有意差をもって生存割合が高値であった(HR=0.6,95%CI:0.5—0.7,p<0.0001)。5年という長期生存割合においても,初発膠芽腫に対してStuppプロトコール群が放射線単独治療群に比較して有効であることが示された。
 その後,日本人においても,テモゾロミドの薬物動態や副作用,治療有効性に人種差がないことが証明されている3,4)(いずれもレベルⅡa)。
 2005年に発表されたStuppプロトコールでは,テモゾロミド補助化学療法は最高6サイクルまでの施行が計画された1)(レベルⅠb)。その後の膠芽腫に対する前方視的な臨床研究では補助化学療法を何サイクル行うべきか,サイクル数を規定するような試みはなされておらず,補助化学療法施行サイクル数の標準化に関する論理的根拠は得られていない。以下に補助化学療法施行サイクル数に参考となる臨床研究を掲げる5,6)(いずれもレベルⅢ)。
 1997~2003年においてドイツの50施設で,悪性神経膠腫患者(gradeⅢ/Ⅳ)を12サイクル以上のテモゾロミド5—day on/23—day offでの治療(施行サイクル数中間値:13サイクル)を行った結果を解析した。その結果,無増悪生存期間中央値は,15.5カ月であり,グレード3以上の有害事象は,約10%であった5)。Stuppプロトコールにおいて,補助化学療法を13サイクル前後まで延長することは毒性の観点から容認できる治療法であることが示唆された。
 Urgitiらは,後方視的研究において52例の初発膠芽腫を,テモゾロミド(5—day on/23—day off)による補助化学療法を6サイクルで中止した23例と7サイクル以上続けた29例を比較した。両群間で年齢,KPSや手術摘出度,MGMT遺伝子プロモーター領域のメチル化などの予後因子は大きな偏りは認められなかったが,生存期間中央値は,それぞれ16.5カ月と24.6カ月(p=0.031)であり,6サイクル以上行った群において,生命予後が延長することを報告した6)(レベルⅢ)。
 テモゾロミドの薬理作用はDNAにメチル基を付加することに基づくが,その抗腫瘍活性はDNAのグアニン塩基のO6位をメチル化することによるものが最も大きい。MGMTはメチル化グアニン塩基からメチル基を除去しDNAのメチル化を修復し,自身はメチル化され不活性体となる。不活性体であるメチル化MGMTは細胞内で分解される。この修復過程は不可逆的であるため,メチル化DNAの部分が多ければ,MGMTにより修復反応を促進させれば理論上,MGMT活性を著明に低下させることが可能になる7)(レベルⅡb)。即ちテモゾロミドを早急に腫瘍細胞に曝露させ,DNAのメチル化を促進し,MGMTによるDNA修復過程を活性化させ,MGMTを枯渇化することにより,テモゾロミド耐性を克服できる可能性が提示されてきた8,9)(いずれもレベルⅡa)。
 テモゾロミドの曝露期間を増加させる治療法の代表はテモゾロミド増量療法であるが10,11)(いずれもレベルⅡa),初発膠芽腫におけるStuppプロトコールの維持化学療法部分のテモゾロミドを増量する治療法は以下の臨床試験の結果,その効果を否定された。
 RTOG,EORTCとNorth Central Cancer Treatment Group(NCCTG)によって初発膠芽腫を対象に行われた第Ⅲ相試験(RTOG0525)は,Stuppプロトコールを標準治療として,Stuppプロトコール維持化学療法部分を3—week on/1—week off(75—100 mg/m2/日)とする試験治療を採用した。1,173例の登録があり,833例がランダム化割り付けされた。その結果,生存期間中央値(標準治療16.6カ月,試験治療14.9カ月,p=0.63,HR=1.03,95%CI:0.88—1.20)と無増悪生存期間中央値(それぞれ5.5カ月,6.7カ月,p=0.06,HR=0.87,95%CI:0.75—1.00)ともに2群間で有意差を示すことができなかった。MGMT遺伝子プロモーター領域のメチル化群は非メチル化群に比べ有意差をもって全生存期間(それぞれ21.2カ月,14.0カ月,p<0.01,HR=0.58,95%CI:0.48—0.69),無増悪生存期間(それぞれ8.7カ月,5.7カ月,p<0.01,HR=0.61,95%CI:0.52—0.73)の延長が示され,治療反応性(p=0.021)も良好であった。放射線併用期の代表的な有害事象はリンパ球減少症(全症例の12%),好中球減少症(全症例の3.6%),血小板減少症(全症例の6.8%)であり,好中球減少症での治療関連死1例が発生したが,日和見感染症は観察されなかった。維持化学療法期では試験治療群にグレード3以上の有害事象が有意差をもって高率に認められ(それぞれ34%,53%,p<0.001),多くはリンパ球減少症と疲労であった12)(レベルⅠb)。

 <注意>
 テモゾロミドの3—week on/1—week off:添付文書に記載されていない投与方法で,国内では承認されていない。

◆文  献
1) Stupp R, Mason WP, van den Bent MJ, et al. European Organisation for Research and Treatment of Cancer Brain Tumor and Radiotherapy Groups;National Cancer Institute of Canada Clinical Trials Group. Radiotherapy plus concomitant and adjuvant temozolomide for glioblastoma. N Engl J Med. 2005;352(10):987—996.(レベルⅠb)
2) Stupp R, Hegi ME, Mason WP, et al. European Organisation for Research and Treatment of Cancer Brain Tumour and Radiation Oncology Groups;National Cancer Institute of Canada Clinical Trials Group. Effects of radiotherapy with concomitant and adjuvant temozolomide versus radiotherapy alone on survival in glioblastoma in a randomised phaseⅢ study:5—year analysis of the EORTC—NCIC trial. Lancet Oncol. 2009;10(5):459—466.(レベルⅠb)
3) Aoki T, Nishikawa R, Mizutani T, et al. Pharmacokinetic study of temozolomide on a daily—for—5—days schedule in Japanese patients with relapsed malignant gliomas:first study in Asians. Int J Clin Oncol. 2007;12(5):341—349.(レベルⅡa)
4) 西川亮,渋井壮一郎,丸野元彦,他.初回再発の退形成性星細胞腫患者に対するTemozolomide単剤投与の有効性および安全性の検討 多施設共同第Ⅱ相試験.癌と化学療法.2006;3(9):1279—1285.(レベルⅡa)

Nishikawa R, Shibui S, Maruno M, et al. [Efficacy and safety of monotherapy with temozolomide in patients with anaplastic astrocytoma at first relapse--a phase II clinical study]. Gan To Kagaku Ryoho. 2006; 33(9): 1279-1285. Japanese
5) Hau P, Koch D, Hundsberger T, et al. Safety and feasibility of long—term temozolomide treatment in patients with high—grade glioma. Neurology. 2007;68(9):688—690.(レベルⅢ)
6) Roldán Urgoiti GB, Singh AD, Easaw JC. Extended adjuvant temozolomide for treatment of newly diagnosed glioblastoma multiforme. J Neurooncol. 2012;108(1):173—177.(レベルⅢ)
7) Tolcher AW, Gerson SL, Denis L, et al. Marked inactivation of O6—alkylguanine—DNA alkyltransfer-ase activity with protracted temozolomide schedules. Br J Cancer. 2003;88(7):1004—1011.(レベルⅡb)
8) Esteller M, Garcia—Foncillas J, Andion E, et al. Inactivation of the DNA—repair gene MGMT and the clinical response of gliomas to alkylating agents. N Engl J Med. 2000;343(19):1350—1354.(レベルⅡa)
9) Hegi ME, Diserens AC, Gorlia T, et al. MGMT gene silencing and benefit from temozolomide in glio-blastoma. N Engl J Med. 2005;352(10):997—1003.(レベルⅡa)
10) Brandes AA, Tosoni A, Cavallo G, et al. Temozolomide 3 weeks on and 1 week off as first—line ther-apy for recurrent glioblastoma:phaseⅡ study from gruppo italiano cooperativo di neuro—oncologia(GICNO). Br J Cancer. 2006;95(9):1155—1160.(レベルⅡa)
11) Wick A, Felsberg J, Steinbach JP, et al. Efficacy and tolerability of temozolomide in an alternating weekly regimen in patients with recurrent glioma. J Clin Oncol. 2007;25(22):3357—3361.(レベルⅡa)
12) Gilbert MR, Wang M, Aldape KD, et al. Dose—dense temozolomide for newly diagnosed glioblas-toma:a randomized phaseⅢ clinical trial. J Clin Oncol. 2013;31(32):4085—4091.(レベルⅠb)
推 奨2
Stuppプロトコール治療を遂行中,放射線治療終了後に偽増悪(pseudoprogression)が示唆される場合はテモゾロミド維持化学療法を継続する。(推奨グレードC1)
解 説
 Chamberlainらは成人初発膠芽腫に対して,Stuppプロトコールを施行した51例中,26例(51%)で6カ月以内に臨床症状および画像上の増悪を認め,そのうち15例(29%)に腫瘍の再摘出術が行われ,7例の病理所見において壊死像が大部分であったと報告した。この事実より,初期治療早期での画像上の造影病変の増大のみで病勢進行と判断し治療法を変更してしまうと,Stuppプロトコールの治療効果を正確に判定できなくなる可能性を指摘している1)(レベルⅢ)。本論文以降,治療早期に造影病変の増大にもかかわらず,臨床症状の悪化に乏しく,摘出組織での組織所見が壊死像主体である病態を偽増悪(pseudoprogression)と呼称することが定着した。
 一方,Brandesらは,成人初発膠芽腫に対してStuppプロトコールを行った症例で,MRI所見の経過から判断したpseudoprogressionの有無と,初回摘出組織のMGMT遺伝子プロモーター領域のメチル化状態との関係について前方視的に検討した。Pseudoprogressionの出現と無増悪生存期間・全生存期間の相関についても解析している。103例中,MGMT遺伝子プロモーター領域のメチル化を認めた36例,非メチル化症例は67例であった。維持化学療法直前に,MRI上造影病変の増大が観察されたのは103例中50例であり,この50例におけるテモゾロミド(temozolomide)維持化学療法2サイクル後のMRI所見は,pseudoprogression(病変縮小または不変)状態32例,true progression(症状増悪の認められた評価病変増大)状態18例であった。本50例のなかでMGMT遺伝子プロモーター領域のメチル化23例のうちpseudoprogressionが観察されたものは21例(91%),非メチル化27例のうちpseudoprogressionが観察されたものは11例(41%)であった。以上の結果より,腫瘍のMGMT遺伝子プロモーター領域のメチル化とpseudoprogressionの発現に有意な相関が示された(p=0.0002)。また,MGMT遺伝子プロモーター領域のメチル化とpseudoprogressionの出現は,生存期間延長とそれぞれに有意に相関していることが判明した(それぞれp=0.001,p=0.045)2)(レベルⅡb)。
 Pseudoprogressionの場合は化学放射線治療後3カ月以降に腫瘍縮小が観察される傾向が強くなり,真の増悪との鑑別が可能になってくる。逆に3カ月以内では真の増悪例との鑑別が特に問題となってくる3)(レベルⅣ)。造影部分の増大にもかかわらず神経症状の悪化のない場合は,pseudoprogressionの可能性も考え,さらに数サイクルのテモゾロミドの維持化学療法を追加するのが望ましい。両者の鑑別が困難な場合は,積極的に手術を行い,組織診断を行うことも重要である。今後,さらなる経験の蓄積により,pseudoprogressionのより正確な頻度や病態への理解を深めていかなければならない。
◆文  献
1) Chamberlain MC, Glantz MJ, Chalmers L, et al. Early necrosis following concurrent Temodar and radiotherapy in patients with glioblastoma. J Neurooncol. 2007;82(1):81—83.(レベルⅢ)
2) Brandes AA, Franceschi E, Tosoni A, et al. MGMT promoter methylation status can predict the incidence and outcome of pseudoprogression after concomitant radiochemotherapy in newly diag-nosed glioblastoma patients. J Clin Oncol. 2008;26(13):2192—2197.(レベルⅡb
3) Brandsma D, Stalpers L, Taal W, et al. Clinical features, mechanisms, and management of pseudopro-gression in malignant gliomas. Lancet Oncol. 2008;9(5):453—461.(レベルⅣ)
推 奨3
初発または再発悪性神経膠腫に対するテモゾロミド治療において,適宜ニューモシスチス肺炎に対する予防処置を行う。(推奨グレードC1)
解 説
 初発膠芽腫を対象としたテモゾロミド(temozolomide)治療の第Ⅱ相試験の中間解析において15例中2例にニューモシスチス(pneumocystis jironecii)肺炎が報告され,その予防処置を講じる必要が緊急に発生した1)(レベルⅢ)。この際に参考とされたのはhuman immunodeficiency virus(HIV)感染者に対するニューモシスチス肺炎予防策であり2)(レベルⅠb),具体的にはスルファメトキサゾール・トリメトプリム(sulfamethoxazole・trimethoprim)合剤(ST合剤:国内承認薬の倍量力価を含有)の内服,またはペンタミジン(pentamidine)の噴霧吸入であった3)(レベルⅡa)。この企業主導治験においては,放射線治療時とそれに続く休薬期間4週間の計10週間に,このいずれかの処置が義務づけられ,以降,第Ⅱ相試験1)(レベルⅢ),続く第Ⅲ相試験4)(レベルⅠb)においていずれもテモゾロミド併用群にニューモシスチス肺炎は観察されなかった。
 ニューモシスチス肺炎の罹患はテモゾロミド使用時のリンパ球減少症やCD4陽性細胞の減少と関連している可能性が示唆されており,テモゾロミド使用にあたっては適宜その予防策を講じる必要がある5)(レベルⅢ)。
 上記報告に従って,我が国でのニューモシスチス肺炎の予防対策として
 ①ST合剤1錠を隔日あるいは連日内服(4週間継続を1サイクルとする)
 ②ペンタミジン300 mgを1回噴霧吸引(4週間を1サイクルとする)
 が推奨される。
 ST合剤は安価で,ニューモシスチス肺炎予防の第一選択であるが,皮膚そう痒感,皮疹等の発現頻度が高く,これら症状発現時には速やかに②に変更する。アトバコン(atovaquone)は,2012年4月にニューモシスチス肺炎の予防措置として我が国で保険承認されたが,テモゾロミド使用時のニューモシスチス肺炎予防の第一選択薬ではなく,HIV感染者やニューモシスチス肺炎のリスクを有する患者(目安としてCD4陽性細胞数が200/mm3未満,ニューモシスチス肺炎の既往歴がある等)における予防薬という位置づけで使用されている。
 そのほかにテモゾロミド使用時に発生しうる感染症としてサイトメガロウイルス(cytemegalovirus)感染症があげられる。特にサイトメガロウイルス肺炎は,ST合剤等によるニューモシスチス肺炎予防措置を行っている患者で間質性肺炎様所見が観察された場合には第一に疑う必要がある。ニューモシスチス肺炎患者では血清β—Dグルカンが高値であるが,サイトメガロウイルス肺炎・感染症では,血清β—Dグルカン正常・pp65抗原(C7—HRP)の高値が診断の補助となる。サイトメガロウイルス感染症にはガンシクロビル(ganciclovir)の投与が有効である5)(レベルⅤ)。

<注意>
ペンタミジン(pentamidine):ニューモシスチス肺炎の予防目的で使用する場合は適応外使用
アトバコン(atovaquone):ニューモシスチス肺炎の予防目的で使用する場合は,ニューモシスチス肺炎のリスク(CD4陽性細胞数が目安として200/mm3未満,ニューモシスチス肺炎の既往歴がある等)を有する患者を対象とする。

◆文  献
1) Stupp R, Dietrich PY, Ostermann Kraljevic S, et al. Promising survival for patients with newly diag-nosed glioblastoma multiforme treated with concomitant radiation plus temozolomide followed by adjuvant temozolomide. J Clin Oncol. 2002;20(5):1375—1382.(レベルⅢ)
2) Kovacs JA, Masur H. Prophylaxis against opportunistic infections in patients with human immunode-ficiency virus infection. N Engl J Med. 2000;342(19):1416—1429.(レベルⅢ)
3) 西川亮,渋井壮一郎,丸野元彦,他.初回再発の退形成性星細胞腫患者に対するTemozolomide単剤投与の有効性および安全性の検討 多施設共同第Ⅱ相試験.癌と化学療法.2006;33(9):1279—1285.(レベルⅡa)
4) Stupp R, Mason WP, van den Bent MJ, et al. European Organisation for Research and Treatment of Cancer Brain Tumor and Radiotherapy Groups;National Cancer Institute of Canada Clinical Trials Group. Radiotherapy plus concomitant and adjuvant temozolomide for glioblastoma. N Engl J Med. 2005;352(10):987—996.(レベルⅠb)
5) 大野誠,沖田典子,成田善孝.テモゾロミドと日和見感染―ニューモシスチス肺炎とサイトメガロウイルス・B型肝炎ウイルスの活性化について―脳神経外科速報2013;23(3):316—323.(レベルⅤ)
推 奨4
初発または再発悪性神経膠腫に対するテモゾロミド治療を行う場合,血清中のHBs抗原,HBc抗体,HBs抗体を測定し,肝臓専門医や内科医と相談して,その患者のB型肝炎状態に応じた対応を適切に行う。(推奨グレードC1)
解 説
 以前よりHBs抗原陽性のB型肝炎ウイルス(hepatitis B virus:HBV)キャリアに合併した造血器腫瘍や固形がんの患者において,がん薬物療法によるHBVの急激な増殖,すなわちHBVの再活性化により致死的な重症肝炎が発症することが知られていた。このようなHBV再活性化は,がん薬物療法を受けるHBVキャリアの24~53%に発症すると報告されており,劇症化する割合が高く,抗ウイルス薬を投与しても予後不良である1)(レベルⅤ)。したがって,がん薬物療法を受けるHBVキャリアでは,肝炎が発症する前から抗ウイルス薬の投与を開始することが重要である1)(レベルⅤ)。一方,HBs抗原陰性,HBc抗体ないしHBs抗体陽性のHBV既往感染例では,従来は臨床的には疾病の治癒状態と考えられてきたが,肝臓や末梢血単核球内では低レベルながらHBV—DNAの複製が長時間持続し,リツキシマブ(retuximab)などの免疫抑制作用のある薬剤の投与により,HBVの再活性化と重症肝炎が発生することも明らかになっている1)(レベルⅢ)。このような既往感染例からのHBV再活性化をde novo B型肝炎と呼び,その頻度は移植後やリツキシマブを含む併用化学療法などを受けた高リスク群で10~20%,通常の全身化学療法では1.0~2.7%と報告されている1)(レベルⅤ)。HBV再活性化には不明な点も多いものの,がん化学療法薬や免疫抑制薬の投与によりHBVが免疫系のサーベイランスから逃れ肝細胞内で増殖し,主には治療終了後に生じるcytotoxic T cellのrebound immune responseにより,広範な感染肝細胞の破壊を伴う重症肝炎が惹起されるものと考えられている。またHBV遺伝子にはglucocorticoid enhancement elementが存在し,ステロイドにより直接的にウイルス複製が助長されることも要因の一つとされている1)(レベルⅤ)。
 初発膠芽腫においてStuppプロトコールの放射線化学療法後早期に,HBVの再活性化を来たし,重症肝炎を呈した症例が4例報告されている2—5)(いずれもレベルⅣ)。4例中3例で初期治療前のHBs抗原が陽性,1例は不明であり,ステロイド使用・不使用,使用状況の詳細も記載されていない。そのためテモゾロミド(temozolomide)によるリンパ球減少,特にCD4陽性細胞の細胞数低下・機能低下が直接HBV再活性化に関連しているとは断定できないが,4例中1例は重症肝炎により死亡していることや,HBV再活性化による重症肝炎は致死率が高いことは衆知の事実であるため,テモゾロミド使用に際してはHBV再活性化について十分な注意喚起が必要である。
 我が国におけるHBV感染者は総人口の0.8%,約100万人程度存在すると推定されており,厚生労働省「肝硬変を含めたウイルス性肝疾患の治療の標準化に関する研究班」および「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究班」の合同ワーキンググループは,「免疫抑制・化学療法により発症するB型肝炎対策ガイドライン」を策定している1)(レベルⅢ)。それによれば,免疫抑制・化学療法を受ける全患者に対してHBs抗原,HBc抗体,HBs抗体のスクリーニング検査を行い,HBs抗原陽性例すなわちHBVキャリアでは肝臓専門医と十分な連携を取りながら抗ウイルス薬の投与を行うよう推奨されている。一方,HBs抗原陰性,HBc抗体ないしHBs抗体陽性のHBV既往感染例については,HBV—DNA定量の定期的なモニタリングを行うこととしている。すなわち,de novo B型肝炎ではその発症に先立ってHBV—DNA量が上昇するため,HBV—DNA量が検出感度以上になった時点で直ちに抗ウイルス薬投与を開始するとされている。また,de novo B型肝炎の多くががん薬物療法の終了後に発症しているため,HBV—DNAのモニタリングは治療期間中および終了後も少なくとも12カ月まで継続するべきとしている。これら記載は臨床試験からの知見の裏打ちには乏しいが,HBV再活性化による重症肝炎は致死率が高いことからも,上記「免疫抑制・化学療法により発症するB型肝炎対策ガイドライン」に沿った対応が望ましい1)
◆文  献
1) 坪内博仁,熊田博光,清澤研道,他.免疫抑制・化学療法により発症するB型肝炎対策 厚生労働省「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班劇症肝炎分科会および「肝硬変を含めたウイルス性肝疾患の治療の標準化に関する研究」班合同報告.肝臓.2009;50(1):38—42.(レベルⅤ)
2) Chheda MG, Drappatz J, Greenberger NJ, et al. Hepatitis B reactivation during glioblastoma treat-ment with temozolomide:a cautionary note. Neurology. 2007;68(12):955—956.(レベルⅣ))
3) Grewal J, Dellinger CA, Yung WK. Fatal reactivation of hepatitis B with temozolomide. N Engl J Med. 2007;356(15):1591—1592.(レベルⅣ)
4) Fujimoto Y, Hashimoto N, Kinoshita M, et al. Hepatitis B virus reactivation associated with temozolo-mide for malignant glioma:a case report and recommendation for prophylaxis. Int J Clin Oncol. 2012;17(3):290—293.(レベルⅣ)
5) Ohno M, Narita Y, Miyakita Y, et al. Reactivation of hepatitis B virus after glioblastoma treatment with temozolomide——case report. Neurol Med Chir(Tokyo). 2011;51(10):728—731.(レベルⅣ))
B ニトロソウレア系薬剤
推 奨5
初発成人膠芽腫に対してニムスチン単剤あるいはニムスチンを含む化学療法を用いる。(推奨グレードC1)
解 説
 1980年のWalkerらの報告で,悪性神経膠腫に対してニトロソウレア系薬剤と放射線治療を含む治療法の予後が良好な傾向にあったことから,米国を中心に,神経膠腫に対してはニトロソウレア系薬剤[カルムスチン(carmustine:BCNU),セムスチン(semustine:methyl—CCNU),ロムスチン(lomustine:CCNU)]が中心的な治療薬となった1)(レベルⅢ)。1993年,初発退形成星細胞腫(2,362例),膠芽腫(3,004例)を対象とした大規模なメタアナリシスが行われ,放射線治療にニトロソウレア系薬剤を併用することにより,1年生存割合が10.1%上昇した(95%CI:6.8—13.3%)という報告がなされた2)(レベルⅠa)。以降,ニトロソウレア系薬剤を併用する化学放射線療法が世界的に初発退形成星細胞腫および膠芽腫に対する標準治療であると考えられるようになった。日本では,2006年にテモゾロミド(temozolomide)が保険適用となるまで放射線治療と国内承認薬であるニムスチン(nimustine:ACNU)の併用療法が膠芽腫において,第Ⅲ相試験はなされてないものの,いわばみなし標準治療として広く行われていた3—5)(いずれもレベルⅢ)。
 ニムスチンを含む化学療法は膠芽腫に対して一定の効果は示しているものの,テモゾロミドとの抗腫瘍効果を比較する第Ⅲ相試験や放射線治療への上乗せ効果を検証する第Ⅲ相試験は行われていない。またニムスチンを含む化学療法はテモゾロミドに比べ有害事象が強い傾向があるという側面もある。以下に,成人初発膠芽腫に対して放射線治療とニムスチン単独,あるいはニムスチンを含む化学療法の効果を評価した臨床研究を紹介する。
 京都脳腫瘍グループは,97例の初発膠芽腫に対して,放射線治療(60 Gy)とニムスチン(60 mg/m2 第1治療日),カルボプラチン(carboplatine)(110 mg/m2 第1治療日),ビンクリスチン(vincristine)(0.6 mg/m2 第1・8・15治療日),インターフェロン—β(interferon—β)(10μg/日,週3回,第1週から第7週まで)併用化学療法の効果と安全性を第Ⅱ相試験で検討した。グレード3以上の毒性は10~20%を示した。無増悪生存期間中央値は10カ月(95%CI:8—12)であり,生存期間中央値は16カ月(95%CI:13—20)であった6)(レベルⅡa)。
 ドイツのNeuro—Oncology Workingグループ(NOA)は,初発悪性神経膠腫患者に対して標準的放射線療法に併用する化学療法をニムスチン+シタラビン(cytarabine:Ara—C)群とニムスチン+テニポシド(teniposide:VM26)群の2群にランダム化割り付けする第Ⅲ相試験を計画した(NOA—01)。1994~2000年まで,375例の患者が登録され,初発膠芽腫おける生存期間中央値はそれぞれ15.7カ月と17.3カ月,2年生存割合はそれぞれ29%と25%であり,両群間に有意差を認めなかった(HR=1.02,p=0.889)7)(レベルⅠb)。
 また,英国では1988~1997年の間に15施設で悪性神経膠腫674例の患者を対象にランダム化比較試験が行われた。放射線治療単独群と放射線治療に併用してPCV療法(プロカルバジン(procarbazine)100 mg/m2 第1~10治療日,ロムスチン100 mg/m2 第1治療日,ビンクリスチン1.5 mg/m2(最大2 mg)第1・8・15治療日)を6週間ごとに施行する2群を設定し,PCV療法の上乗せ効果を検証した。放射線単独治療群310例,PCV療法併用群307例が登録され,生存期間中央値は放射線単独治療群9.5カ月に対してPCV療法併用群10カ月であり,両者の間に有意差はなかった(HR=0.95,95%CI:0.81—1.11,p=0.50)。よって,悪性神経膠腫に対してPCV療法は有意な上乗せ効果を示すことはできなかった8)(レベルⅠb)。
 Japan Clinical Oncology Group(JCOG)は,悪性神経膠腫(星細胞腫gradeⅢ/Ⅳ)に対して放射線治療に加えてニムスチン80 mg/m2を第1および第36治療日に投与する対象治療群(A群)とプロカルバジン80 mg/m2(第1~10治療日および第36~45治療日連日投与)+ニムスチン80 mg/m2(第8および第43治療日)を投与する試験治療群(B群)の2群を比較検討した(JCOG0305)。維持療法として,それぞれの化学療法を56日ごとに12サイクル繰り返す予定とした。19施設より111例が登録された。膠芽腫に限れば生存期間中央値はA群(40例)16.2カ月,B群(41例)18.7カ月,無増悪生存期間中央値はA群6.0カ月,B群6.3カ月であった。全生存期間では両群間に有意差は認められなかった。有害事象として,グレード3以上の白血球減少は,A群38.9%,B群73.2%,血小板減少はA群5.6%,B群50.0%に観察された9)(レベルⅡa)。

<注意>
 カルムスチン(carmustine:BCNU):注射薬は国内未承認,徐放性ポリマーは悪性神経膠腫に対して承認
 セムスチン(semustine:methyl—CCNU):国内未承認
 ロムスチン(lomustine:CCNU):国内未承認
 カルボプラチン(carboplatin):膠芽腫に対しては適応外使用
 シタラビン(cytarabin:Ara—C):膠芽腫に対しては適応外使用
 テニポシド(teniposide:VM26):国内未承認

◆文  献
1) Walker MD, Green SB, Byar DP, et al. Randomized comparisons of radiotherapy and nitrosoureas for the treatment of malignant glioma after surgery. N Engl J Med. 1980;303(23):1323—1329.(レベルⅠb)
2) Fine HA, Dear KB, Loeffler JS, et al. Meta—analysis of radiation therapy with and without adjuvant chemotherapy for malignant gliomas in adults. Cancer. 1993;71(8):2585—2597.(レベルⅠa)
3) Takakura K, Abe H, Tanaka R, et al. Effects of ACNU and radiotherapy on malignant glioma. J Neu-rosurg. 1986;64(1):53—57.(レベルⅢ)
4) Matsutani M, Nakamura O, Nakamura M, et al. Radiation therapy combined with radiosensitizing agents for cerebral glioblastoma in adults. J Neurooncol. 1994;19(3):227—237.(レベルⅢ)
5) Yoshida J, Kajita Y, Wakabayashi T, et al. Long—term follow—up results of 175 patients with malig-nant glioma:importance of radical tumour resection and postoperative adjuvant therapy with inter-feron, ACNU and radiation. Acta Neurochir(Wien). 1994;127(1—2):55—59.(レベルⅢ)
6) Aoki T, Takahashi JA, Ueba T, et al. PhaseⅡ study of nimustine, carboplatin, vincristine, and inter-feron—beta with radiotherapy for glioblastoma multiforme:experience of the Kyoto Neuro—Oncol-ogy Group. J Neurosurg. 2006;105(3):385—391.(レベルⅡa)
7) Weller M, Muller B, Koch R, et al. Neuro—Oncology Working Group 01 trial of nimustine plus tenipo-side versus nimustine plus cytarabine chemotherapy in addition to involved—field radiotherapy in the first—line treatment of malignant glioma. J Clin Oncol. 2003;21(17):3276—3284.(レベルⅠb))
8) Medical Research Council Brain Tumor Working P. Randomized trial of procarbazine, lomustine, and vincristine in the adjuvant treatment of high—grade astrocytoma:a Medical Research Council trial. J Clin Oncol. 2001;19(2):509—518.(レベルⅠb)
9) Shibui S, Narita Y, Mizusawa J, et al. Randomized trial of chemoradiotherapy and adjuvant chemo-therapy with nimustine(ACNU)versus nimustine plus procarbazine for newly diagnosed anaplastic astrocytoma and glioblastoma(JCOG0305). Cancer Chemother Pharmacol. 2013;71(2):511—521.(レベルⅡa)
C インターフェロン—β
推 奨6
成人初発膠芽腫患者に対して,Stuppプロトコールへのインターフェロン-βの併用投与を行わない。(推奨グレードC2)
解 説
 強い抗ウイルス作用を有する生理活性物質として同定されたI型インターフェロン(interferon α/β)は,抗腫瘍作用を含めた様々な作用を示し,1980年頃より,国内外で膠芽腫・悪性神経膠腫治療に使用されてきた1)(レベルⅡa)。1994年,Yoshidaらは過去20年間において放射線とニムスチンとインターフェロン-βの併用で治療を行った悪性神経膠腫175例(110例の膠芽腫と65例の退形成星状細胞腫)の長期成績を後方視的に解析し報告した。完全寛解例(全摘出例と治療による完全反応例を含む)は23%であり,完全寛解例の3年および5年生存割合はそれぞれ42%と24%であった。問題となる有害事象は観察されなかった2)(レベルⅢ)。2006年にはColmanらが初発膠芽腫109例に対するインターフェロン-βの補助療法の第Ⅱ相試験の結果を報告した。初発膠芽腫に対して手術後放射線治療を行い,その後インターフェロン-β(600万単位/body,筋肉内投与)を週3回投与した。生存期間中央値は13.4カ月であり,同施設でのhistorical controlに比較して有意差はないものの生存期間が延長する傾向を認めた(HR=1.27,95%CI:0.94-1.63,p=0.19)3)(レベルⅡa)。 一方,Natsumeらは,ヒトグリオーマ細胞株に於いて,インターフェロン-βがp53の誘導を介してO6-methylguanine DNA methyltransferase (MGMT)の発現を抑制し,グリオーマ細胞のテモゾロミド感受性を高めることを示した4)。また,in vivo モデルにおいてもインターフェロン-βはテモゾロミドの治療効果を高めることを示した5)
 これらの臨床研究結果や基礎実験のデータから,現在の標準治療であるStuppプロトコールにインターフェロン-βを併用することで,さらなる治療効果が得られる可能性が仮説として提唱され,本邦でインターフェロン-βとテモゾロミド併用療法の第Ⅰ相試験(INTEGRA study)が行われた6)。初発および再発悪性神経膠腫(膠芽腫,退形成性星細胞腫,または,退形成性乏突起膠細胞系腫瘍)を対象とし,Stuppプロトコールの放射線・テモゾロミド併用療法期にインターフェロン-β(300万単位/回,隔日週3回点滴静注)を併用,維持治療期にはテモゾロミド(5日間投与, 28日間隔)にインターフェロン-β(300万単位/回/日,28日間隔)を併用し,6サイクル以上施行することとした。初発例には導入・維持治療両方が,再発例には維持治療が行われた。その結果,有害事象は,初回再発退形性成星細胞腫に対するテモゾロミド単独療法の国内第Ⅱ相試験と比べて大きな違いはなく,同治療の安全性は認容できると考えられた6)(レベルⅡb)。さらに, Motomuraらによる,初発成人膠芽腫連続68症例の後方視的解析では,対照群(Stuppプロトコール)の生存期間中央値12.7カ月に対しインターフェロン-β併用群は19.9カ月であった7)(レベルIII)。特に予後不良と考えられるMGMTプロモーター非メチル化症例に限定した解析でも,生存期間中央値は対照群12.5カ月に対し,インターフェロン-β併用群は17.2カ月で生存期間延長効果を認めた。多変量解析では,インターフェロン-βの併用は,独立した予後予測因子であった。
 これらの結果を踏まえ,2010年4月より,初発成人膠芽腫(20~75歳)に対する,インターフェロン-β+テモゾロミド併用化学放射線療法のStuppプロトコールに対する優越性を探索する多施設共同ランダム化第II相試験(JCOG0911)が行われた8) (レベルIb)。122名が登録され,試験治療群には導入治療部分のStuppプロトコールにインターフェロン-β(300万単位/回,隔日週3回点滴静注)を併用,維持治療はStuppプロトコールの維持化学療法部分にインターフェロン-β(300万単位/回/日,28日間隔)を併用し,2年間継続することとした。対照群はStuppプロトコールを2年間継続することとした。生存期間中央値は対照群20.3カ月に対してインターフェロン-β群24カ月で,試験治療の優越性は示されなかった(HR 1.00, 95% CI 0.65–1.55; one-sided log rank p = 0.51)。無増悪生存期間中央値は,対照群10.1カ月に対してインターフェロン-β群8.5カ月であった(HR 1.25, 95% CI 0.85–1.84; two-sided p = 0.25)。サブグループ解析にて,男性,若年(49歳以下),ECOG PS0の患者において,試験治療群で生存期間が延長されたが有意差は認めなかった。好中球減少やリンパ球減少などの有害事象が試験治療群で多く観察された8) (レベルIb) 。
◆文  献
1) 永井政勝.悪性脳腫瘍に対するBRM療法の進歩.癌と化学療法.1991;18(2):188—94.(レベルⅡa)
2) Yoshida J, Kajita Y, Wakabayashi T, et al. Long—term follow—up results of 175 patients with malig-nant glioma:importance of radical tumour resection and postoperative adjuvant therapy with inter-feron, ACNU and radiation. Acta Neurochir(Wien). 1994;127(1—2):55—59.(レベルⅢ)
3) Colman H, Berkey BA, Maor MH, et al. PhaseⅡ Radiation Therapy Oncology Group trial of conven-tional radiation therapy followed by treatment with recombinant interferon—beta for supratentorial glioblastoma:results of RTOG 9710. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2006;66(3):818—824.(レベルⅡa)
4) Natsume A, Ishii D, Wakabayashi T, et al. IFN-beta down-regulates the expression of DNA repair gene MGMT and sensitizes resistant glioma cells to temozolomide. Cancer Res. 2005;65(17):7573-7579
5) Natsume A, Wakabayashi T, Ishii D, et al. A combination of IFN-beta and temozolomide in human glioma xenograft models: implication of p53-mediated MGMT downregulation. Cancer Chemother Pharmacol. 2008;61(4):653-659
6) Wakabayashi T, Kayama T, Nishikawa R, et al. A multicenter phaseⅠ trial of combination therapy with interferon—beta and temozolomide for high—grade gliomas(INTEGRA study): the final report. J Neurooncol. 2011;104(2):573—577(レベルⅡb)
7) Motomura K, Natsume A, Kishida Y, et al. Benefits of interferon-β and temozolomide combination therapy for newly diagnosed primary glioblastoma with the unmethylated MGMT promoter: A multicenter study. Cancer.2011;117(8):1721-1730 (レベルIII)
8) JCOG0911:http://www.jcog.jp/basic/clinicaltrial/index.html  (レベルIb)
D カルムスチン徐放性ポリマー
推 奨7
成人初発膠芽腫手術においてカルムスチン徐放性ポリマーを留置する。(推奨グレードC1)
解 説
 悪性神経膠腫の化学療法は,全身毒性などの限界より高濃度薬剤を腫瘍へ十分に到達させることが困難である。Siposらのグループは,生物分解性ポリマーにがん化学療法薬を包み込んで局所的に徐放する方法を開発した1)(レベルⅡb)。
 続いて同薬が初発悪性神経膠腫(gradeⅢ/Ⅳ)患者においても有効なことを検証するためのランダム化比較試験が施行された。同意取得後,手術前にカルムスチン(carmustine:BCNU)徐放性ポリマー処置群とプラセボ群にランダム化割り付けされた患者において,摘出術中の迅速病理診断で悪性神経膠腫の疑いと診断された場合,カルムスチン徐放性ポリマーまたはプラセボが腫瘍摘出腔に留置された。両群で244例が登録され,全例に手術後60 Gyの放射線治療が行われた。生存期間中央値はカルムスチン徐放性ポリマー群で13.9カ月,プラセボ群11.6カ月であり,有意差をもってカルムスチン徐放性ポリマー群が優れていた(HR=0.71,95%CI:0.52—0.96,p=0.03)。また,有害事象に大きな差は観察されなかった2)(レベルⅠb)。ただし,膠芽腫に限っての解析(カルムスチン徐放性ポリマー群101例,プラセボ群106例)では全生存期間に有意差は認められなかった(HR=0.76,95%CI:0.55—1.05,p=0.10)。
 上記以外の成人初発膠芽腫に対するカルムスチン徐放性ポリマー留置を含めた治療成績の検討は後方視的なものである。Johns Hopkins Hospitalからの報告では初発膠芽腫に対しカルムスチン徐放性ポリマー留置後放射線治療を行った78例の生存期間中央値12.4カ月,カルムスチン徐放性ポリマー留置後Stuppプロトコールを施行した30例の生存期間中央値20.7カ月であった3)(レベルⅢ)。Göttingen Universityからの報告では44例の成人初発膠芽腫に対し,カルムスチン徐放性ポリマー留置後Stuppプロトコールを施行した場合,無病生存期間中央値7.0カ月,生存期間中央値12.7カ月であった4)(レベルⅢ)。さらにこれらを含めた臨床研究を総括した報告によれば,成人膠芽腫新規診断例に対してカルムスチン徐放性ポリマー留置を含む化学放射線治療成績は概ね良好であるが,予後因子にばらつきが有り,Stuppプロトコールと前方視的な比較検証はなされておらず,あくまで後方視的研究という制限をもって評価するべき結果となっている5)(レベルⅢ)。  一方で徐放性ポリマー製剤留置後の本剤のCT/MRI上の特徴的な経時的変化やair形成6,7)(いずれもレベルⅢ),摘出腔の進行性増大8)(レベルⅢ)といった諸現象,本剤留置後,周囲脳実質の浮腫増強,手術創治癒遷延,髄液漏,頭蓋内感染,BCNU成分の脳室系への拡散等も留意すべき項目である5,8,9)(いずれもレベルⅢ)。
◆文  献
1) Sipos EP, Tyler B, Piantadosi S, et al. Optimizing interstitial delivery of BCNU from controlled release polymers for the treatment of brain tumors. Cancer Chemother Pharmacol. 1997;39(5):383—389.(レベルⅡb)
2) Westphal M, Hilt DC, Bortey E, et al. A phase 3 trial of local chemotherapy with biodegradable car-mustine(BCNU)wafers(Gliadel wafers)in patients with primary malignant glioma. Neuro Oncol. 2003;5(2):79—88.(レベルⅠb)
3) McGirt MJ, Than KD, Weingart JD, et al. Gliadel(BCNU)wafer plus concomitant temozolomide therapy after primary resection of glioblastoma multiforme. J Neurosurg. 2009;110(3):583—588.(レベルⅢ)
4) Bock HC, Puchner MJ, Lohmann F, et al. First—line treatment of malignant glioma with carmustine implants followed by concomitant radiochemotherapy:a multicenter experience. Neurosurg Rev. 2010;33(4):441—449.(レベルⅢ)
5) Gutenberg A, Lumenta CB, Braunsdorf WE, et al. The combination of carmustine wafers and temo-zolomide for the treatment of malignant gliomas. A comprehensive review of the rationale and clini-cal experience. J Neurooncol. 2013;113(2):163—174.(レベルⅢ)
6) Hammoud DA, Belden CJ, Ho AC, et al. The surgical bed after BCNU polymer wafer placement for recurrent glioma:serial assessment on CT and MR imaging. AJR Am J Roentgenol. 2003;180(5):1469—1475.(レベルⅢ)
7) Prager JM, Grenier Y, Cozzens JW, et al. Serial CT and MR imaging of carmustine wafers. AJNR Am J Neuroradiol. 2000;21(1):119—123.(レベルⅢ)
8) Della Puppa A, Rossetto M, Ciccarino P, et al. The first 3months after BCNU wafers implantation in high—grade glioma patients:clinical and radiological considerations on a clinical series. Acta Neuro-chir(Wien). 2010;152(11):1923—1931.(レベルⅢ))
9) De Bonis P, Anile C, Pompucci A, et al. Safety and efficacy of Gliadel wafers for newly diagnosed and recurrent glioblastoma. Acta Neurochir(Wien). 2012;154(8):1371—1378.(レベルⅢ)
E 血管新生阻害薬
推 奨8
成人初発膠芽腫患者に対して,Stuppプロトコールにベバシズマブの併用を考慮してもよい。(推奨グレードC1)
解 説
 ベバシズマブ(bevacizumab)は血管上皮成長因子に対するヒト化モノクロナール抗体であり,我が国では初発および再発の悪性神経膠腫の他,大腸がん,肺がん,乳がん,卵巣がん, 子宮頸がんに対する治療薬として承認を得ている薬剤である。成人初発膠芽腫に対するベバシズマブのStuppプロトコールへの上乗せ効果を二重盲検法で検証したランダム化第Ⅲ相試験はAVAglio試験とRTOG0825試験の2つであり,いずれもその結果が2014年に発表された1,2)
 AVAglio試験では,co-primary endpointsの1つである無増悪生存期間は,中央値でプラセボ群6.2カ月,ベバシズマブ群10.6カ月であり,HR 0.64(95%CI:0.55—0.74,p<0.0001)とベバシズマブ群において有意な延長を認めた1)(レベルIb)。このベバシズマブ群での無増悪生存期間の延長は,サブグループ横断的に認めていた。もう1つのprimary endpoint である全生存期間は,中央値でプラセボ群16.7カ月,ベバシズマブ群16.8カ月,HR 0.88(95%CI:0.76—1.02,p=0.010)と両群に有意差を認めなかった。
 RTOG0825試験では,主要評価項目の1つである無増悪生存期間は,中央値でプラセボ群7.3カ月,ベバシズマブ群10.3カ月であり,HR 0.79(95%CI:0.66—0.94,p=0.007)というAVAglio試験と同様の結果であった2)(レベルIb)。しかし,RTOG0825試験では無増悪生存期間に関してあらかじめ有意水準を両側検定でp<0.004と設定しているため,この結果は統計学的に有意水準には達していないと判定された。もう1つの主要評価項目である全生存期間は,中央値でプラセボ群16.1カ月,ベバシズマブ群15.7カ月,HR 1.13(95%CI:0.97—1.37,p=0.21)と有意差を認めなかった。
 このように2つの試験において,無増悪生存期間と全生存期間は数値としてはほぼ一致した結果が得られ,主要評価項目のうち無増悪生存期間はベバシズマブ群で一定の延長を認めた。しかしながら,両試験の画像上の無増悪生存期間が,特に血管新生阻害療法の画像評価による病変の真の増悪の判定での弱点が指摘されているMacDonald基準により測定されていることからも,結果の解釈には注意が必要である。実際,より厳密なエンドポイントとされる全生存期間は,いずれの試験でも上乗せ効果を確認できなかった。なお, クロスオーバーの比率,すなわちプラセボ群において再発時にベバシズマブを使用している症例の割合は,AVAglio試験では約30%,RTOG0825試験では約50%でしかないため,これらの試験から再発時にベバシズマブを初めて投与することの全生存期間への影響を判断することは難しい。
 QOLの検討においては,2つの試験での評価結果が一致しなかった。AVAglio試験では,secondary endpoint の1つとしてQOL解析を掲げ,health—related QOLに関するEORTC QLQ—C30と脳腫瘍特異的な指標であるBN20を評価の指標とした。主な解析項目としてQLQ—C30では全般的健康状態,身体機能,社会生活機能を,BN20では運動機能,コミュニケーション能力の5項目と事前に設定し経時的に測定したのに加え,その他の21項目についても評価を行った3)(レベルⅢ)。質問票のスコア(100点満点換算)が試験前のベースラインから,10点以上低下した場合を悪化と定めた。悪化までの期間をプラセボ群とベバシズマブ群で比較したところ,上記5つの項目すべてにおいてベバシズマブ群で悪化までの期間が延長しており(p < 0.001),その他21項目についても,ベバシズマブで有意に悪化までの期間が延長していた(p < 0.05)。ただし,ほとんどの項目でベースラインからの低下は10点未満で,両群ともに臨床的に意味のあるほどの変化を認めなかった。Health—related QOLの低下は再発進行時に認めており,無増悪の間はベバシズマブ上乗せがhealth—related QOLに与える影響は特になかった。屋内生活の自立が可能の目安とされるKPS 70以上の状態が,中央値でプラセボ群6カ月に対してベバシズマブ群9カ月と3カ月延長した。ベバシズマブ群の方が,ステロイドを必要とする患者が少なかった。
 一方,RTOG0825試験では,附随研究として臨床症状評価にMD Anderson症状評価表—脳腫瘍版(MDASI—BT)を,認知機能評価にHVLT-R, TMT, COWAを,QOLの評価にEORTC QLQ—C30/BN20を用い,これらの指標を同一症例で経時的に追跡評価した。事前に定めたプロトコールに従いPDとなった症例はその時点からこの解析から除外されている。その結果,ベバシズマブ群において経時的にこれらいずれのスコアも悪化する傾向が認められた。
 このように両試験とも無増悪生存期間はベバシズマブ投与によって延長しているにもかかわらず,health—related QOL評価,認知機能評価の結果は,2つの試験で一致しなかった。その原因には,QOL解析方法の違いが挙げられているが,その他に調査票回収率など調査のコンプライアンスの関与も考えられる。AVAglio試験ではQOL検査が副次評価項目であったため,試験開始後1年の時点でほぼ8割の患者で施行されているが,RTOG0825試験ではQOL解析は附随研究に位置づけられており,試験開始から34~46週の時点での検査結果回収率が約5割に留まっている。ただし,health—related QOLに関しては,再発進行に伴い増悪した患者を除けば,両試験ともベバシズマブ上乗せによる改善は認めないという点で,共通した結果であった。
 有害事象についてAVAglio試験では,重篤な有害事象は,プラセボ群(25.6%)よりベバシズマブ群(38.8%)で有意に多く認め(p < 0.001),同様に,グレード3以上の有害事象は,プラセボ群(51.3%)よりベバシズマブ群(66.8%)で有意に多く認めた(p < 0.001)。ベバシズマブ群において高血圧(グレード3以上:11.3%)や蛋白尿(同:5.4%)がプラセボ群に比べて多く観察された。また動脈塞栓血栓症もグレード3以上の症例が5.0%とプラセボ群の1.3%より多かった(p = 0.003)。その他のベバシズマブ群でより多く観察された重篤な有害事象は,出血,創傷治癒合併症,消化管穿孔,うっ血性心不全であった。RTOG0825試験では,ベバシズマブ群で多くみられた化学放射線療法時の重篤な有害事象は,好中球減少(7.3% vs. 3.7%)と血栓塞栓症(10.2% vs. 7.7%)であり,維持療法中の重篤な有害事象もベバシズマブ群で多く,高血圧(4.2% vs. 0.9%),血栓塞栓症(7.7% vs. 4.7%),創傷治癒障害(1.5% vs. 0.9%),疲労(13.1% vs. 9.0%),消化管穿孔(1.2% vs. 0.4%),出血(1.5% vs. 0.9%),好中球減少(10.0% vs. 5.1%)であった。このように,両試験の有害事象プロファイルは類似した結果であり,ベバシズマブ群では重篤な有害事象が多く観察された。ただし,AVAglio試験データの有害事象を中心とした解析では,これら有害事象は,標準治療や再手術の施行の障害になるほどのものではないとの結果も報告されている4)(レベルIII)。
 このように,両試験ともに全生存期間の延長が認められないため,ベバシズマブ投与により効果を認めるサブグループを同定することが重要と考えられる。AVAglio試験で増悪時に治療が行われなかった症例を解析すると,ベバシズマブ投与群での全生存期間の延長を認めるため,増悪時に治療ができそうもない初発膠芽腫患者に対しては,Stuppプロトコールへの上乗せ効果が期待できる可能性があると考えられた5)(レベルIII)。また,AVAglio試験にて収集した腫瘍検体の遺伝子発現解析からproneural, mesenchymal, proliferative, unclassified群に分けて予後との関連を検証したところ,IDH1 wild-typeのproneural typeでベバシズマブ上乗せ効果が認められた(全生存期間12.8カ月 vs. 17.1カ月, p = 0.002)6)(レベルIII)。これにより,初発膠芽腫ではIDH1 wild-typeのproneural typeがベバシズマブの治療効果予測因子であることが示唆されたが,この結果が実臨床に反映されるためには,proneural typeを同定しうる比較的容易な検査法の開発が必要であり,また他のコホートにおけるvalidationも望ましく,現時点での臨床的な有用性は限定的である。
◆文  献
1) Chinot OL, Wick W, Mason W, et al. Bevacizumab plus radiotherapy-temozolomide for newly diagnosed glioblastoma. N Engl J Med. 2014; 370: 709-722(レベルIb)
2) Gilbert MR, Dignam JJ, Armstrong TS, et al. A randomized trial of bevacizumab for newly diagnosed glioblastoma. N Engl J Med. 2014; 370: 699-708(レベルIb)
3) aphoorn MJ, Henriksson R, Bottomley A, et al. Health-Related Quality of Life in a Randomized Phase III Study of Bevacizumab, Temozolomide, and Radiotherapy in Newly Diagnosed Glioblastoma. J Clin Oncol. 2015; 33: 2166-2175(レベルⅢ)
4) Saran F, Chinot OL, Henriksson R, et al. Bevacizumab, temozolomide, and radiotherapy for newly diagnosed glioblastoma: comprehensive safety results during and after first-line therapy. Neuro Oncol. 2016; 18: 991-1001(レベルⅢ)
5) Chinot OL, Nishikawa R, Mason W, et al. Upfront bevacizumab may extend survival for glioblastoma patients who do not receive second-line therapy: an exploratory analysis of AVAglio. Neuro Oncol. 2016; 18: 1313-1318(レベルⅢ)
6) Sandmann T, Bourgon R, Garcia J, et al. Patients With Proneural Glioblastoma May Derive Overall Survival Benefit From the Addition of Bevacizumab to First-Line Radiotherapy and Temozolomide: Retrospective Analysis of the AVAglio Trial. J Clin Oncol. 2015; 33: 2735-2744(レベルⅢ)

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