CQ7 高齢者初発膠芽腫に対して手術後どのような治療が推奨されるか?
推 奨1
高齢者においても,テモゾロミドを併用した化学放射線療法を考慮する。(推奨グレードB)
推 奨2
高齢者における放射線治療では,線量の減量と照射期間の短縮を考慮する。(推奨グレードB)
推 奨3
高齢者において,MGMT遺伝子プロモーター領域メチル化症例はテモゾロミド単独療法も治療選択肢として考慮してもよい。(推奨グレードC1)
推 奨4
高齢者において,化学療法が困難な場合,放射線単独療法を考慮する。(推奨グレードC1)
解 説
 膠芽腫において単独で最も検出力の高い予後因子は年齢である。米国Surveillance, Epidemiology, and End Resultsデータベースを用いた1993~2007年の膠芽腫患者 19,674例の検討では,膠芽腫患者の生存期間中央値は高齢になるにつれて著しく低下し,特にテモゾロミド使用開始前後での生存期間中央値の変化の検討では20~44歳群:13.5カ月→18.5カ月に延長が認められたのに対し,65~79歳群:5.5カ月→6.5カ月に留まった。さらに80歳以上の群では3.5カ月で生存期間の延長を認めなかった1)(レベルⅢ)。加えて,70歳以下の成人膠芽腫に対する標準治療を確立したStuppらの第Ⅲ相試験における副次的解析においても,患者が高齢になるほどハザード比が上昇,すなわちテモゾロミドの上乗せ効果が薄れることが示されている2,3)(いずれもレベルIb)。
 これらの状況を踏まえ,高齢者初発膠芽腫・悪性神経膠腫の治療を考えるうえで示唆に富む臨床研究がなされている。
 70歳以上の初発退形成性星細胞腫または膠芽腫でKPSスコア70以上の85例の患者において放射線治療(50 Gy,1.8 Gy/日)とbest supportive careを比較する第Ⅲ相試験が行われている。85例の対象者の年齢中央値は73歳(70~85歳)であった。中間解析において放射線治療群の優越性が明らかとなったため,試験が中止となった。生存期間中央値はそれぞれbest supportive care群が16.9週,放射線治療群が29.1週であった(HR=0.47,95%CI:0.29—0.76,p=0.002)4)(レベルIb)。また,60歳以上の初発膠芽腫患者100例を対象とした標準照射法60 Gy/30 frに対する短期照射法40 Gy/15 frの非劣性を検討するランダム化比較試験では,6カ月生存割合,全生存期間ともに短期照射法の標準照射法に対する非劣性が証明された(HR=0.89,95%CI:0.59—1.36,p=0.57)。生存期間中央値はそれぞれ5.1カ月と5.6カ月,6カ月生存割合はそれぞれ44.7%,41.7%であった5)(レベルIb)。後年,限られた医療資源の中で,高齢者・フレイル患者への放射線照射期間のさらなる短縮が有力な治療選択肢となり得るかを示すため,50歳以上かつKPS 50~70の例および65歳以上かつKPS 50以上の膠芽腫患者98例を対象にした国際多施設共同ランダム化比較試験が行われた。生存期間中央値は25 Gy/5 frで7.9カ月(95% CI:6.3—9.6)に対し,40 Gy/15 frで6.4カ月(95% CI:5.1—7.6) で同等の結果(p =0.988)で,無増悪生存期間・QOLについても有意差を認めず,標準照射40 Gy/15 frに対する短期照射25Gy/5frの非劣性が示された6)(レベルIb)。本研究の副次的解析として,65歳以上の高齢者61例に対象を絞った検討が行われている。対象となった患者の約70%がECOG PS 2,3に相当(25 Gy/5 fr群の69%, 40 Gy/15 fr群の63%がKPS 50~70)し,両群ともにテモゾロミド投与は行われていない。結果は母研究と同様であり,生存期間中央値は25 Gy/5 fr:6.8カ月(95%CI:4.5—9.1)および40 Gy/15 fr:6.2カ月(95%CI:4.7—7.7)で明らかな差を認めなかった。KPS低値(50~70)の群においても,生存期間・QOLについて両群に明らかな差を認めなかった。高齢者において,超短期照射25 Gy/5 frは標準照射40 Gy/15 frに対して非劣性であることが示され, 65歳以上の高齢者,とりわけ全身状態不良やテモゾロミド投与が困難な患者において,さらなる照射期間の短縮が治療選択肢となり得ることが示された7)(レベルⅢ) 。
 Brandesらは,65歳以上の初発膠芽腫患者79例に対して放射線単独治療(59.4 Gy/33 fr,1.8 Gy/日)(1993~1995年),同放射線治療後PCV〔プロカルバジン(procarbazine),ロムスチン(lomustine:CCNU),ビンクリスチン(vincristine)〕維持化学療法(1995~1997年),および同放射線治療後テモゾロミド維持化学療法(150 mg/m2/日,5-day on/23-day off)(1997~2000年)の3群を行い,3群の治療成績を比較する第Ⅱ相試験を行っている8)(レベルⅡb)。この研究の結果,3群の生存期間中央値はそれぞれ11.2カ月(95%CI:9.43—13.35),12.7カ月(95%CI:11.2—18.74)そして14.9カ月(95%CI:13.37—24.35)となり,放射線治療後テモゾロミド維持化学療法群は放射線単独治療群と比較して有意な優越性が認められた。通常放射線治療後にテモゾロミド維持化学療法を行うことが高齢者において有効である可能性が示された。
 ドイツのNeuro-oncology Working GroupによるNOA-08試験は,2005~2009年の期間において,KPSスコアが60以上で,65歳以上の退形成性星細胞腫または膠芽腫患者412例(膠芽腫患者が約9割を占める)に対して,放射線治療(54~60 Gy)群に対する増量テモゾロミド(1日投与量100 mg/m2,1-week on/1-week off)群の非劣勢を検証する第Ⅲ相ランダム化比較試験である。主要評価項目は全生存期間とし,非劣勢マージンは25%とした。生存期間中央値は,放射線治療群9.6カ月(95%CI:8.2—10.8),テモゾロミド群8.6カ月(95%CI:7.3—10.2)(HR=1.09,95%CI:0.84—1.41,p=0.033)で,有害事象も容認できる範囲であったため,テモゾロミド単独投与治療の非劣勢が示された9)(レベルIb)。さらにはMGMT遺伝子プロモーター領域のメチル化症例においてテモゾロミド単独投与治療は選択肢の一つとなり得ることが示された。しかし,逆にMGMT遺伝子プロモーター領域非メチル化症例においてテモゾロミド単独投与治療は放射線単独治療より全生存期間,無増悪生存期間が有意に短縮する傾向になることも判明し,採取組織のMGMT遺伝子プロモーター領域のメチル化測定を行わない場合には,テモゾロミド単独投与をすべきではない9)(レベルIb)。
 Nordic研究は,60歳以上の初発膠芽腫342例に対して,放射線治療(60 Gy,1回2 Gy,6週間)群(100例)を標準治療とし,短期照射(34 Gy,1回3.4 Gy,2週間)群(123例),テモゾロミド(200 mg/m2/日,5-day on/23-day off)による6サイクルの化学療法群(119例)の試験治療,それぞれの優越性を検証するランダム化第Ⅲ相試験である10)(レベルIb)。全生存期間を主要評価項目とした。3群の生存期間中央値は,それぞれ6カ月(95%CI:5.1—6.8),7.5カ月(95%CI:6.5—8.6),8.3カ月(95%CI:7.1—9.5)であり,テモゾロミド群は標準放射線治療群に対して有意な生存期間の延長を示したが(HR=0.70,95%CI:0.52—0.93,p=0.01),短期照射群は標準的放射線治療群に比較して有意な生存期間延長を示すことはできなかった(HR=0.85,95%CI:0.64-1.12,p=0.24)。70歳以上の患者に限定すれば標準放射線治療群に比べて短期照射群,テモゾロミド群はそれぞれ有意に生存期間の延長が認められた(短期照射群 HR=0.59,95%CI:0.37-0.93,p=0.02,テモゾロミド群 HR=0.35,95%CI:0.21—0.56,p<0.0001)。また70歳以上の患者において短期照射群とテモゾロミド群の間には全生存割合において有意差は観察されなかった(HR=0.72,95%CI:0.50—1.05,p=0.09)。テモゾロミド群においてMGMT遺伝子プロモーター領域メチル化症例は非メチル化症例に比べて生存期間の延長が観察されたが(HR=0.56,95%CI:0.34—0.93,p=0.02),標準あるいは短期照射群全体の中ではMGMT遺伝子プロモーター領域メチル化は生命予後に影響を与えなかった。テモゾロミド群ではグレード3/4の好中球減少(12例),血小板減少(18例)が観察されており,高齢者ではよりきめ細かい治療管理が要求されることを示唆している。
 NCICとEORTCの共同研究で,短期照射を標準治療群とし短期照射時にテモゾロミド連日併用投与に加えて終了後6サイクルのテモゾロミド維持化学療法を行う治療群のランダム化第Ⅲ相試験が行われた。年齢65歳以上の膠芽腫 562例について,放射線単独療法(40 Gy/15 fr)と放射線療法+テモゾロミド併用投与(40 Gy/15 fr, 75 mg/m2)を各々281例ずつ割付けた。全生存期間を主要評価項目とした。生存期間中央値はテモゾロミド併用群9.3カ月 ・放射線単独群7.6カ月(HR=0.67, 95%CI:0.56—0.80, p<0.001)で,短期照射にテモゾロミドを併用する化学放射線療法の有効性が確認された。また年齢層別の平均生存期間については,65~70歳:テモゾロミド併用群8.7カ月・放射線単独群8.3カ月 (HR=0.93, 95%CI:0.48—0.83)であるのに対し,71~75歳:テモゾロミド併用群9.3カ月・放射線単独群7.6カ月(HR=0.63, 95%CI:0.48—0.83),76歳以上:テモゾロミド併用群10.0カ月・放射線単独群7.1カ月(HR=0.53, 95%CI:0.38—0.73)で,より高齢の群での短期照射・テモゾロミド併用療法の有益性が見出された。本研究の結果からは,70歳が短期照射+テモゾロミド併用療法の恩恵を受ける一つの線引きであるように推察された。特にMGMT遺伝子プロモーター領域メチル化を示す例では,テモゾロミド併用群13.5カ月・放射線単独群7.7カ月(HR=0.53, 95%CI:0.38—0.73, p<0.001)で,生存期間の延長が顕著であった。一方,MGMT遺伝子プロモーター領域非メチル化例でも生存期間中央値はテモゾロミド併用群:10.0カ月・放射線単独群7.9カ月(HR 0.75, 95%CI:0.56—1.01, p<0.055)で統計学的有意差は認められないながらも,臨床的には意義深い生存予後延長が観察された。ただし本研究は神経症状が比較的軽い群が対象であり,状態不良例に対する治療については課題として残されている11)(レベルIb) 。
 以上の試験を総括すると,高齢者の初発膠芽腫患者においては,生存期間延長の観点からは術後放射線治療を考慮することが重要であり,状態の良い患者では放射線治療および化学療法が考慮される。放射線治療は60 Gy/30 fr/6週間の通常の照射法に比べて,高齢者においては短期照射(34 Gy/10 fr/2週間,40 Gy/15 fr/3週間など)が有望である。手術後,採取組織のMGMT遺伝子プロモーター領域のメチル化を検討し,メチル化症例では,短期照射・テモゾロミド併用療法が有効な治療選択肢である。メチル化症例では、テモゾロミド単独治療も選択肢となり得るが,短期照射・テモゾロミド併用療法とテモゾロミド単独治療のランダム化第Ⅲ相試験による比較はなされていない。非メチル化症例でも併用療法が有効である可能性があるが,テモゾロミド単独療法の有効性は乏しい。化学療法が困難な場合,放射線単独療法は選択肢の一つである。

<注意>
 テモゾロミド1—week on/1—week off投与:添付文書に記載された投与法・投与量以外の投与方法
 MGMT遺伝子プロモーター領域のメチル化測定:保険承認,保険償還されていない検査法

◆文  献
1) Darefsky AS, King JT Jr, Dubrow R. Adult glioblastoma multiforme survival in the temozolomide era: a population-based analysis of Surveillance, Epidemiology, and End Results registries. Cancer. 2012; 118(8):2163-2172(レベルⅢ)
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3) Stupp R, Hegi ME, Mason WP, et al. European Organisation for Research and Treatment of Cancer Brain Tumour and Radiation Oncology Groups;National Cancer Institute of Canada Clinical Trials Group. Effects of radiotherapy with concomitant and adjuvant temozolomide versus radiotherapy alone on survival in glioblastoma in a randomised phaseⅢ study:5—year analysis of the EORTC—NCIC trial. Lancet Oncol. 2009;10(5):459—466.(レベルⅠb)
4) Keime—Guibert F, Chinot O, Taillandier L, et al. Radiotherapy for glioblastoma in the elderly. N Engl J Med. 2007;356(15):1527—1535.(レベルⅠb)
5) Roa W, Brasher PM, Bauman G, et al. Abbreviated course of radiation therapy in older patients with glioblastoma multiforme:a prospective randomized clinical trial. J Clin Oncol. 2004;22(9):1583—1588.(レベルⅠb)
6) Roa W, Kepka L, Kumar N, Sinaika V, et al. International Atomic Energy Agency randomized phase III study of radiation therapy in elderly and/or frail patients with newly diagnosed glioblastoma multiforme. J Clin Oncol. 2015; 33(35):4145-4150(レベルIb)
7) Guedes de Castro D, Matiello J, Roa W, et al. Survival outcomes with short-course radiation therapy in elderly patients with glioblastoma: Data from a randomized phase 3 Trial. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2017; 98(4):931-938(レベルⅢ)
8) Brandes AA, Vastola F, Basso U, et al. A prospective study on glioblastoma in the elderly. Cancer. 2003;97(3):657-662(レベルⅡb)
9) Wick W, Platten M, Meisner C, et al. Temozolomide chemotherapy alone versus radiotherapy alone for malignant astrocytoma in the elderly:the NOA—08 randomised, phase 3 trial. The Lancet Oncol-ogy. 2012;13(7):707—715.(レベルⅠb)
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11) Perry JR, Laperriere N, O'Callaghan CJ, et al. Short-course radiation plus temozolomide in elderly patients with glioblastoma. N Engl J Med. 2017;376(11):1027-1037(レベルIb)

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