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CQ3 再発の転移性脳腫瘍の治療はどう選択するのか?
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推 奨1 全脳照射が行われていない症例に関しては全脳照射を追加するように勧められる。(推奨グレードC1)
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推 奨2 定位放射線照射(STI)後の長径3 cm以下の新規脳内病変にはSTIを考慮してもよい。(推奨グレードC1) |
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推 奨3 全脳照射後の長径3 cm以下の再発にはSTIを行うよう勧められる。(推奨グレードC1)
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推 奨4 腫瘍の種類によっては薬物療法を考慮してもよい。(推奨グレードC1,本章CQ3参照)
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推 奨5 機能予後あるいは生命予後の改善が期待される場合には摘出術を考慮してもよい。(推奨グレードC1)
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解 説
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1. |
定位放射線照射(STI)後の再発
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STI後の再発に対するSTI再照射は,新規脳内病変(遠隔部位への再発)と局所再発に分けて考える必要がある。Hanssensらは定位手術的照射(SRS)後の患者の前方視的観察にもとづき,新規の脳内病変に対してSRSを再度行った251例について解析した1)(レベルⅢ)。SRS再照射後の生存期間中央値は9.6カ月であり,新病変の出現までの中央値は7.5カ月であった。生存期間は年齢,性別,がんの種類,全脳照射の有無とは関係がなかった。単発転移は多発転移より生存期間が長く(それぞれ16カ月と8.3カ月),転移数が2~4個の患者では5個以上の患者よりも長期に生存した(それぞれ10カ月と5.8カ月)。一方,局所再発の場合の再照射についての報告は少なく2,3)(いずれもレベルⅢ),放射線性壊死との鑑別や,再照射による壊死のリスクを低減するために線量の減量や分割が必要である。
全体としてSTIによる再治療後の生存期間中央値は7.5~9.6カ月,1年間の局所制御割合57~95%であり,70%以上で1年以内に新規に脳内病変が出現する1—3)(いずれもレベルⅢ)。KPS, RPAクラス,全身のがんの状況,多発かどうかが予後関連因子として報告されている。このようにSTIは再発時の治療としての高いエビデンスはないものの,比較的低いリスクで有効な治療効果が得られること,全脳照射を回避できることから腫瘍径が小さい新規の脳内病変には考慮すべき治療である。どのような症例が局所再発時にサルベージのSTIの適応になるかについては今後症例の蓄積が必要であるが,当面は全脳照射や腫瘍摘出術などが治療として適当ではない比較的小さい病変に限られるべきであろう。
STI後の再発はしばしば全脳照射で治療される。初回治療としてSTI単独での治療群と全脳照射を加えた群とを比較した臨床研究では,STI単独群の70%以上で1年以内に脳内再発を認め,その約1/3に全脳照射が行われている4,5)(いずれもレベルⅠb)。Sneedらの多施設共同試験でもSRS単独での治療を受けた患者268例中98例に救済治療が行われ,そのうち63例は全脳照射を含んだ治療を受けている6)(レベルⅢ)。このように全脳照射は比較的高頻度に行われているにもかかわらず,その治療成績の記載は少ない。前述のHanssensらの研究ではSTI後の再発に対してサルベージの全脳照射を行った75例の平均生存は3.8カ月にすぎなかったと述べられているが,対象がより状態の悪い患者に偏っていた可能性があるとしている。
STI後のサルベージの全脳照射の治療成績や有害事象については不明な点が多く,再発時に全脳照射で治療するかSTIで再治療するかの明確な指針はない。全脳照射がよいと考えられる場合としては,腫瘍の数が多いか腫瘍体積が大きい場合,または髄腔内播種を伴う場合である。さらに患者の年齢と期待できる余命なども勘案して決めるべきである。STIの良い適応でそれが比較的容易に実施できる施設ではSTIが好まれる傾向にある。局所再発の場合には腫瘍摘出術も考慮する必要がある(後述)。一般に薬物療法の転移性脳腫瘍に対する局所効果は放射線治療や腫瘍摘出術と比較して劣るため,症状を有する転移性脳腫瘍では原則として放射線治療または腫瘍摘出術を優先する。
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2. |
全脳照射後の再発
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全脳照射後の再発時のSTIについては,多数の症例報告によりその有効性が示されており,生存中央値7.8~10.0カ月,1年の局所制御率57~91.3%,1年での遠隔転移出現率14~58%と報告されている7—12)(いずれもレベルⅢ)。SRSでは線量の減量が必要であり,腫瘍径20 mm以下で24 Gy,21~30 mmで18 Gy,31~40 mmで15 Gyが推奨されている(RTOG90—05)13)(レベルⅡb)。Cabelloらは多施設共同研究で全脳照射併用治療後の再発にSRS(15~20 Gy)を行った310例の結果から,がん種により予後因子が異なることを報告した7)(レベルⅢ)。乳がんでは年齢(50歳未満),腫瘍の合計の大きさ,全脳照射からSRSまでの期間が有意に生存期間と関係した。非小細胞肺癌では転移の数,KPS(>60),原発巣のコントロールが関係し,悪性黒色腫では腫瘍体積の合計が関係した。STIからの生存期間中央値は全体で8.4カ月であり,単発の場合では多発より長かったが,多発の場合は個数とは関係がなかった。これら以外に,乳がんではHER2陽性患者の予後が良いことが報告されている10)(レベルⅢ)。以上の結果より,全脳照射後の3 cm以下の再発に関してはSTIによる治療が推奨され,がん種により違いはあるがKPS 70以上で全身のコントロールができており,転移の数が少数あるいは腫瘍体積の合計が小さいものが良い適応と考えられる。
全脳照射後の再発時の全脳再照射の有効性については議論が分かれている。一般に,再照射からの生存中央値は2~5.2カ月と短い14—18)(いずれもレベルⅢ)。放射線治療の追加による合併症が問題になるが,10~30Gyの照射では比較的少なく症状の改善が期待できるため,有用性とする意見も多い14,16—18)(いずれもレベルⅢ)。Sonらの報告では,全脳照射を行った380例のうちSTIの対象とならない多数の再発を有する患者17例に再照射を行い,そのうち80%では症状が改善している17)(レベルⅢ)。生存中央値は全体で5.2カ月であり,全身コントロールが良好な患者では19.8カ月,良好ではない患者では2.5カ月であった。合併症は軽微であり,症例を選択したうえでの再照射は有効であると結論している。なお,これらの症例には小細胞肺癌が6例含まれており,悪性黒色腫のような放射線抵抗性の腫瘍は含まれていない点に注意が必要である。
一方,Hazukaらは全脳照射後の転移性脳腫瘍455例のうち44例に全脳再照射を行ったが,有効例は稀であったと報告している15)(レベルⅢ)。1例は再治療から1年以上生存したが,全体の生存期間中央値は8週であり,症状の改善も27%で認められたにすぎなかった。放射線壊死は剖検を行った8例中3例で認められており,そのうち2例では死亡原因と推定されている。Akibaらの報告では奏効割合(完全奏効+部分奏効)は55%であったが,認知機能障害が32%に認められている14)(レベルⅢ)。全脳再照射は,STIなどの他の方法の適応とならない患者において一時的な改善を得るための姑息的治療としては有用かもしれない。しかし,放射線壊死,認知機能障害,下垂体機能低下等の合併症のリスクがあるため,年齢,全身の状態,腫瘍の放射線感受性などを含めて考慮する必要がある。
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3. |
腫瘍摘出術
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再発の転移性脳腫瘍に対する大規模な研究やエビデンスの高い報告はない。KanoらはSRS後の再発58例に腫瘍摘出術を行い,生存中央値は7.7カ月であったと報告している19)(レベルⅢ)。このうち術後6,12,24カ月後の生存はそれぞれ65,30,16%,局所制御割合はそれぞれ71,62,43%であった。単変量解析ではRPAクラス,KPS,全身のがんの状態,STIからの期間が生存に関連した。病理学的には55%が腫瘍の再発,残りが再発と放射線壊死の混合であった。腫瘍摘出術による死亡率は1.7%であり,重篤な合併症を6.9%に認めた。KPS中央値は術前80,術後1カ月では90であった。SRSから腫瘍摘出術までの期間は悪性黒色腫で短く,乳がんでは長い傾向があったが,がん種による全生存期間に差は認めなかった。STI後の再増大病変には放射線壊死の場合があり,多くの場合これらの術前診断は困難である20)(レベルⅢ)。放射線壊死の場合は,一般的に摘出後の治療成績は良好である20,21)(いずれもレベルⅢ)。
Bindalらは初回治療として腫瘍摘出術を受けた後に再発した48例(うち31例は初回治療として全脳照射も併用)に対して再手術を行い,生存中央値は11.5カ月であったと報告している22)(レベルⅢ)。全身のがんの広がり,4カ月未満の再発,40歳以上,乳がん,悪性黒色腫が予後不良因子であった。術後死亡はなく,5例で一過性の神経症状の悪化を認めたが,いずれも30日以内に回復している。KPSは33例に改善を認めており,11例では不変であった。
全体としてKPSやRPAクラス,全身のコントロールが良好であることが予後因子として重要であり,さらに前治療からの期間が関連するという報告もある19,20,23,24)(いずれもレベルⅢ)。年齢や組織型に関しては一致がみられない。また,再手術後の生存中央値は10カ月前後である19—25)(いずれもレベルⅢ)。術後死亡は1~2%前後,KPSは改善または不変であったという報告がある21—25)(いずれもレベルⅢ)。術後合併症の発生率は初回手術と大きく変わらず,軽度のものを含めて20%前後である。神経学的な悪化は0~6.9%と報告されており,運動野,言語野などの症候発現域で高い。
このように,STI後の局所症候性進行病変やSTIの適応とならない再発病変では,KPSが70以上で原発巣がコントロールされている場合には脳内の他病変の有無を考慮しながら摘出術を行うことで生命予後が改善する可能性があり,しばしばQOLの改善も期待できる。
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◆文 献
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