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CQ 5 頭蓋骨転移に対する治療はどう選択するのか?
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推 奨1 症候性または近い将来に局所治療を必要とする頭蓋骨転移には放射線治療を行う。(推奨グレードB)
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推 奨2 薬物療法に高感受性とされる腫瘍では,薬物療法を単独あるいは放射線治療と組み合わせて行うよう勧められる。(推奨グレードC1)
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推 奨3 全身の転移性骨腫瘍を有する患者に対して,あるいは骨関連事象のリスクが高い頭蓋骨転移の場合,骨関連事象の発現を軽減するために,ビスホスホネート製剤(ゾレドロン酸)またはヒト型抗RANKL(NFκB活性化受容体リガンド)モノクローナル抗体薬(デノスマブ)を投与する。(推奨グレードB)
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推 奨4 外科治療は,脳神経症状の早急な解除,静脈洞閉塞の回避,整容,または病理診断を目的に,厳格な適応判断のもとに行うよう勧められる。(推奨グレードC1)
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解 説
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骨転移は,進行前立腺がんの90%,進行乳がんの70~80%,進行非小細胞肺癌の30~40%に発生する1)(レベルⅢ)。一般に,頭蓋骨転移は全身の骨転移に伴って出現する。特に頭蓋底への転移は,Laigle—Donadeyの279例の報告によると,前立腺がん(38.5%),次いで乳がん(20.5%)に多く,他にもさまざまながん種から転移する2)(レベルⅢ)。
頭蓋円蓋部の転移は必ずしもQOLを低下させることはないが,骨からの硬膜への浸潤,上矢状・横静脈洞の閉塞の回避,ときに整容を目的として治療方針を検討する。一方,頭蓋底への転移は,脳神経障害,疼痛,頭蓋内圧亢進などによりQOLを低下させることが多く,迅速な診断と治療が必要である。頭蓋底転移の発見と診断には,Greenbergによる5症候群の分類が有用である(表1)3)(レベルⅣ)。特に嚥下困難,複視,三叉神経痛や後頭後頸部の激痛は患者にとって重大な障害になる。これらの症状が出現したときは,MRIによって造影前T1強調画像と造影脂肪抑制T1強調画像とを比較して診断する4)(レベルⅢ)。X線撮影,骨条件CT,骨シンチグラフィーも有用である。また,画像診断が困難な場合でも,上記のような症状が出現している場合には放射線治療を勧めてもよいとする意見もある2)。
症候性の骨転移に対する放射線治療の有効率は一般に50~80%と高く,特に疼痛の緩和に有効である5)(レベルⅠa)。また,症状の出現から速やかに開始されるほど効果は高い。症状出現から1カ月以内に放射線治療を開始した場合には87%の患者で症状が改善したが,3カ月を超えると25%にすぎなかったという報告がある6)(レベルⅣ)。定位放射線照射の適応は3cm以下の病変,初期治療および術後残存病変や再発病変であり,奏効割合は65~90%と報告されている7)(レベルⅣ)。また,症状がない場合であっても静脈洞閉塞のリスクがある場合,急速に増大する病変によって重篤な症状が出現する可能性がある場合には,それらを回避するために放射線治療が勧められる。
頭蓋骨転移は,全身の骨転移の一部と捉え,それがQOLを低下させる場合には,それぞれの腫瘍の薬物療法感受性を根拠として,全身薬物療法すなわち化学療法や内分泌療法を行う。さらに,骨転移に特異的な薬物療法として,ビスホスホネート製剤(ゾレドロン酸)またはヒト型抗RANKL(NFκB活性化受容体リガンド)モノクローナル抗体薬(デノスマブ)の投与が行われる。前立腺がんと乳がんを除いた固形がんの患者を対象に,骨関連事象(skeletal related events:SRE)発生率と発生までの時間を指標として,ゾレドロン酸とプラセボの比較試験が行われている8)(レベルⅠb)。9カ月目までのSRE出現率はゾレドロン酸投与群で35~38%,プラセボ群では44%であり,SRE発生までの期間はゾレドロン酸によって有意に延長した。ゾレドロン酸とデノスマブを比較した3つのランダム化比較試験を統合した解析によると,ゾレドロン酸と比較してデノスマブはSREを17%減少させたと報告されている9)(レベルⅠb)。また,両薬剤のSRE予防効果には,過去のSREの有無,年齢を含む患者側の因子は関与していなかった。これらの結果より,転移性骨腫瘍を有する患者に対しては,骨転移による症状の有無に関わらず,SREを予防する目的でゾレドロン酸またはデノスマブを投与するよう勧められる。
ゾレドロン酸をはじめとするビスホスホネート製剤に共通する副作用として,顎骨壊死と腎障害が知られている。顎骨壊死のリスク因子は,口腔内の感染症,直近の歯科的処置,長期間の投与などである。また,腎機能障害患者では血漿中濃度が増加するため,クレアチニンクリアランスに基づいて投与量を調整する。一方,デノスマブによる顎骨壊死の頻度も,ゾレドロン酸との比較試験の結果より,ゾレドロン酸と同程度と報告されている10)(レベルⅠa)。デノスマブは腎機能による投与量調整は不要であるが,臨床試験では重度の腎障害の患者は除外されており,腎障害患者への適応は慎重に判断する。さらに,低カルシウム血症予防のためにカルシウムとビタミンDの経口補充,カルシウム値のモニタリングが必須である11)(レベルⅠb)。ゾレドロン酸は点滴投与,デノスマブは皮下投与の違いがある。処方例として,①ゾレドロン酸4 mg3~4週ごと点滴投与,②デノスマブ120mg4週ごと皮下投与,などが考えられる。
外科治療の適応は,期待できる治療効果,侵襲性,予後などを慎重に検討して決定する。腫瘍摘出の際には,十分なサージカルマージン(安全域)を確保したうえで,また硬膜や皮膚に浸潤する場合は同時に切除する。円蓋部の転移に対する外科治療の適応には,神経学的な異常を伴う,大きな骨破壊や硬膜への浸潤がある,腫瘤が疼痛を伴う,転移が単発である,病理診断の必要があるときなどが挙げられる12)(レベルⅢ)。一方,特にQOLを低下させることの多い頭蓋底への転移では,原発がんの組織型,頭蓋内への進展度,サージカルマージンの状況が治療成績に影響したと報告されている13)(レベルⅢ)。Chamounらは,頭蓋底への転移に対して外科治療を行った27例のうち全摘出が可能であった症例は59%に留まったことから,外科治療による根治は困難であり,その適応は少数例にすぎないため,より厳格な適応判断が必要であるとしている14)(レベルⅢ)。高齢者における外科治療の安全性については,悪性腫瘍の治療目的で頭蓋顔面手術を受けた症例の解析において,70歳以上の170例では70歳未満の1,096例と比較して,外科治療に関係した死亡率(それぞれ9%と3%)および合併症発生率(それぞれ42%と32%)は有意に高かった15)(レベルⅢ)。以上より,外科治療は,比較的若年であり,他に放射線治療や薬物療法によって治療目的を達成できない場合に限り,厳格な適応判断のもとに行うべきであろう。
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表1 頭蓋骨転移における腫瘍局在と臨床症候群(文献3より作成)
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Greenberg臨床症候群 (腫瘍局在部位) |
症状・徴候 |
眼窩 |
眼窩上の頭痛,複視,眼球突出 |
傍鞍部 |
前頭部痛,複視 |
錐体骨前縁(ガッセル神経節) |
顔面感覚障害,非定型的顔面痛,外転神経麻痺,顔面神経麻痺 |
頸静脈孔 |
後頭部痛,嗄声,嚥下障害 |
後頭顆 |
後頭部痛(ときに激烈),構語障害 |
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◆文 献
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1) |
Coleman RE. Clinical features of metastatic bone disease and risk of skeletal morbidity. Clin Cancer Res. 2006;12(20 Pt):6243s—6249s(レベルⅢ)
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2) |
Laigle—Donadey F, Taillibert S, Martin—Duverneuil N, et al. Skull—base metastases. J Neurooncol 2005;75(1):63—69(レベルⅢ)
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3) |
Greenberg HS, Deck MD, Vikram B, et al. Metastasis to the base of the skull:clinical findings in 43 patients. Neurology 1981;31(5):530—537(レベルⅣ)
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4) |
Mitsuya K, Nakasu Y, Horiguchi S, et al. Metastatic skull tumors:MRI features and a new conven-tional classification. J Neurooncol 2011;104(1):239—245(レベルⅢ)
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5) |
Chow E, Harris K, Fan G, et al. Palliative radiotherapy trials for bone metastases:a systematic review. J Clin Oncol 2007;25(11):1423—1436(レベルⅠa)
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6) |
Vikram B, Chu FC. Radiation therapy for metastases to the base of the skull. Radiology 1979;130(2):465—468(レベルⅣ)
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7) |
Chamoun RB, DeMonte F. Management of skull base metastases. Neurosurg Clin N Am 2011:22(1):61—66, vi—ii(レベルⅣ)
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8) |
Rosen LS, Gordon D, Tchekmedyian S, et al. Zoledronic acid versus placebo in the treatment of skel-etal metastases in patients with lung cancer and other solid tumors:a phaseⅢ, double—blind, ran-domized trial——the Zoledronic Acid Lung Cancer and Other Solid Tumors Study Group. J Clin Oncol 2003;21(16):3150—3157(レベルⅠb)
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9) |
Lipton A, Fizazi K, Stopeck AT, et al. Superiority of denosumab to zoledronic acid for prevention of skeletal—related events:a combined analysis of 3 pivotal, randomised, phases 3 trials. Eur J Cancer 2012;48(16):3082—3092(レベルⅠb)
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10) |
Saad F, Brown JE, Van Poznak C, et al. Incidence, risk factors, and outcomes of osteonecrosis of the jaw:integrated analysis from three blinded active—controlled phaseⅢ trials in cancer patients with bone metastases. Ann Oncol 2012;23(5):1341—1347(レベルⅠb)
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11) |
Henry DH, Costa L, Goldwasser F, et al. Randomized, double—blind study of denosumab versus zole-dronic acid in the treatment of bone metastases in patients with advanced cancer(excluding breast and prostate cancer)or multiple myeloma. J Clin Oncol 2011;29(9):1125—1132(レベルⅠb)
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12) |
Stark AM, Eichmann T, Mehdorn HM. Skull metastases: clinical features, differential diagnosis, and review of the literature. Surg Neurol. 2003;60(3):219—225; discussion 225—6(レベルⅢ)
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13) |
Patel SG, Singh B, Polluri A, et al. Craniofacial surgery for malignant skull base tumors:report of an international collaborative study. Cancer 2003;98(6):1179—1187(レベルⅢ)
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14) |
Chamoun RB, Suki D, DeMonte F. Surgical management of cranial base metastases. Neurosurgery 2012;70(4):802—809(レベルⅢ)
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15) |
Ganly I, Patel SG, Singh B, et al. Kraus DH, Cantu G, Fliss DM, Kowalski LP, Snyderman C, Shah JP. Craniofacial resection for malignant tumors involving the skull base in the elderly:an international collaborative study. Cancer 2011;117(3):563—571(レベルⅢ)
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