(寛解導入療法②多剤併用療法)
CQ5 PCNSLに対する寛解導入療法として多剤併用化学療法が推奨されるか?
推 奨1
PCNSLに対する初発時治療として,HD-MTXを含む多剤併用薬剤療法が推奨される(推奨グレードB)。
推 奨2
リツキシマブに関しては次項CQ6を参照。
解 説
 HD-MTX単独療法+全脳照射により,PCNSLの治療成績は生存期間中央値(MST)が33~44カ月と放射線治療単独に比べ改善したが,依然長期の寛解や治癒に至る症例は少ない。より治療成績の向上を目的として,HD-MTX療法に他剤を併用する多剤併用HD-MTX療法+全脳照射が試みられている。併用薬としては,プロカルバジン(PCZ),シクロホスファミド(CPA),ビンクリスチン(VCR),チオテパ(国内販売中止)シタラビン(AraC),カルムスチン(BCNU:本邦未承認薬),リツキシマブ(CQ6参照)などが使用されている。
  1.(R)-MPV-A= (リツキシマブ)-MTX+PCZ+VCR-AraC
   MSKCCで行われた第II相試験(52症例)では,5サイクルのHD-MTX (3.5g/m2),プロカルバジン(PCZ),ビンクリスチン(VCR)併用療法後に全脳照射を施行し,さらにHD-AraCによる地固め療法が施行された(MPV-A療法)。60歳以上では全脳照射が待機される症例も含まれたが,MSTが51カ月とHD-MTX単独療法の治療成績を上回る成績が報告され,PFSの中央値も129カ月と極めて良好であった1)レベルIIa)。しかし,一方で治療関連神経毒性は最終的には30%に発生し,初期治療で全脳照射を行った60歳以上の症例では75%と高頻度で出現している。RTOG (RTOG 93-10)では同様にHD-MTXにPCZ,VCR,およびMTX髄注,照射後AraCを加えた治療を102症例に施行したが,MSTは37カ月に留まり,15%に重篤な神経障害を認めている2)レベルIIa)。
 MSKCCからはその後MPV-A療法にリツキシマブを初期寛解導入療法に併用する多剤併用免疫化学療法のR-MPV-Aレジメンの治療成績が報告された(MSK-01-146試験)3)。この単アーム第II相試験では,R-MPVを5サイクルもしくは7サイクル施行後に完全奏効となった場合,全脳照射は23.4Gyに減量し,地固めのHD-AraC療法を追加した。全52例中30例(60%)でR-MPV療法後にCRとなり減量照射が行われ,主要評価項目の減量照射施行例での2年PFSは77%,mPFSは7.7年,mOSは未到達であった。全例でのmPFSは3.3年,mOSは6.6年,全治療終了後の追跡でも認知機能やMRI上の白質変化に有意な悪化は認めなかった。主たる有害事象は好中球減少症で,4例が毒性中止(腎機能障害,イレウス,発熱性好中球減少,憩室破裂)し,治療関連死は6%であった3)レベルIIa)(リツキシマブに関してはCQ6を参照のこと)。
 Omuroらは同様に32例(年齢中央値57歳,KPS中央値80)に対しR-MPV療法(5〜7サイクル)後,チオテパ+CPA+ブザルファン併用(TBC療法)による大量化学療法(HDC)と自家幹細胞移植(ASCT)を行う単アーム第II相試験を実施した4)。追跡期間45カ月で,R-MPVの奏効割合は97%,mPFS・mOSは未到達,2年PFSおよびOSは各79%,81%と良好な成績が認められたが,治療関連死が3例(10%)に生じた(レベルIIa)(註:チオテパは本邦では非発売)。
  2.シタラビン(AraC)(R)-MA=(リツキシマブ)+MTX+AraC
   PCNSLに対するHD-MTX療法を行った19の前向き臨床試験の結果を解析したメタアナリシスが2001年に報告され,有意に予後良好であった3 g/m2以上のMTX投与量の症例に限ると,AraCの追加が多変量解析にて生存期間の延長効果が認められた5)レベルIII)。この結果を受けて,2009年にInternational Extranodal Lymphoma Study Group (IELSG)はHD-MTX療法+全脳照射群と,HD-AraCをHD-MTXに追加する併用群を比較するランダム化第II相試験(IELSG #20)の治療成績を報告した6)レベルIb)。79症例を2群に分け,ORRはHD-MTX群で40%,併用群で69% (p=0.009),3年FFS割合は単独群で21%,併用群で38% (p=0.01)(HR 0.54),3年生存割合は単独群32%,併用群46%(p=0.07)(HR 0.65)と,AraC併用群で治療反応性と無増悪生存期間の延長効果が認められた。しかし毒性はAraC併用群で明らかに強く,グレード 3/4の高度血液毒性がMTX単独群では15%に留まったのに対し,AraC併用群では92%にみられ,また治療関連死も8%(MTX単独群では3%)に出現した。HD-AraC併用はG-CSFなどの予防的治療を必要とし,75歳以上の高齢者には推奨できないとしている。また,本試験でのMTX単独群での治療間隔は3週間ごとであり,通常の2週間ごとの治療間隔に比べ長いことから投与量強度(dose intensity)が相対的には低く,全体の奏効割合も低めであることなど,本試験結果の今後の検証が必要と考えられる。
  3.チオテパ,リツキシマブ
   欧州のIELSGでは,初発PCNSLに対し,上記のHD-MTX+HD-AraC療法を対照に,抗体薬のリツキシマブ,およびチオテパの上乗せ効果を探索するランダム化第II相試験を実施した(IELSG #32試験:MATRix試験)7)。70歳以下の227例(平均年齢57歳)をグループA:MTX+AraC併用群(MA)(75例)),B:MA+リツキシマブ群(69例),C:MAR+チオテパ群(75例)の3群にランダム化し,主要評価項目の寛解導入療法後のCR割合は,A群23%,B群30%,C群49%,奏効割合はA群53%,B群74%,C群83%であった。B群はA群に対して有意に奏効し(p=0.012),PFS,OSにおいても奏効傾向を示した(PFS:p=0.051,OS:p=0.095)。C群はAに対して有意に奏効(p=0.0001),B群に対しても奏効傾向(p=0.053)が認められた(レベルIb7)。グレード4の血液毒性はリツキシマブ+チオテパ併用群(C群)で他群より多く発生したが,感染性合併症の発生割合は3群間で同等であった。グレード4の非血液毒性は稀で,寛解導入療法期の治療関連死は6%であった。したがって,初発PCNSLに対し,リツキシマブの併用,さらにはチオテパの併用は有力な治療法と考えられ,現在の多くの臨床試験ではリツキシマブが寛解導入療法の一部となっている。一方,チオテパは本邦では発売中止となっているため使用することはできない(リツキシマブに関してはCQ6を参照のこと)。
  4.テモゾロミド(PCNSLは適用外)
   膠芽腫の標準治療薬であるテモゾロミド(TMZ)はBBB透過性が良好なアルキル化剤のため,浸潤性が強くアルキル化系抗がん剤が適応となっているPCNSLに対する有効性が期待される薬剤である(現在は適応外)。再発PCNSLに対しての効果が報告されたことを受け,2つの単アーム第II相試験がTMZを初期寛解導入療法に組み込んだレジメンで実施された。CALGB 50202試験では,MT-R(MTX+TMZ+リツキシマブ)療法5サイクルによる導入後,CR例で全脳照射を回避し,CYVE (エトポシド/シタラビン)療法による地固め療法を行った。44例(年齢中央値61歳)が登録され,主要評価項目のMT-R後のCR割合は66%,2年PFSは全体で57%,CYVE地固めを完了した患者群では77%であった8)レベルIIa)。グレード4の好中球減少,血小板減少が各55%,50%に認められたが,その80%が地固めCYVE療法後に生じ,1例感染による死亡があった。MT-Rによるグレード4の有害事象は低頻度であった。,br>  RTOG 0227試験では,MT-R併用による寛解導入療法後に全脳照射(36 Gy)を行い,その後TMZ単独による維持療法(10サイクル)を行う単アーム第I/II相試験が実施された。第II相部は53例(平均年齢57歳)で,主要評価項目の2年OSは80.8%,2年PFS 63.6%,奏効割合85.7%,CTCAEグレード3/4の有害事象は照射前に66%,照射後治療は45%であった9)レベルIIa)。この結果は,RTOGによるPCNSLに対する過去の試験と比較し最も優れた成績であった。
 TMZはPCZと同じくMTICが抗腫瘍効果を発揮する誘導体であり,PCZに比べ毒性が軽い特徴を有することから,これらの試験結果から今後PCZに代わり多剤併用寛解導入療法に組み入れられる可能性がある。Omuroらは,60歳以上の高齢者初発PCNSLに対するMPV-A療法とMTX+TMZ(MT)療法を比較するランダム化第II相試験(ANOCEF-GOELAMS)を実施した10)。95例をMT群48例(年齢73歳),MPV-A群47例(同72歳)に割り付け,主要評価項目の1年PFSは,MT群,MPV-A群ともに36%と有意差を認めなかったが,mPFSは各6.1カ月,9.5カ月,mOSは各14カ月,31カ月,奏効割合は各71%,82%とMPV-A療法群が良好な傾向がみられた(レベルIb)。
 現在本邦では,JCOG脳腫瘍グループが70歳以下の初発PCNSLを対象に,HD-MTXを3サイクル後,全脳照射(CR例で30 Gy,非CR例では30 Gy+局所照射10 Gy)にTMZを併用し,照射後に維持TMZ療法を2年間継続する試験治療群を,TMZを用いない標準治療群を比較するランダム化第III相試験を先進医療B下で実施中である(JCOG 1114)。
  5.その他のレジメン
   その他,MATILDE療法(MTX+AraC+イダルビシン+チオテパの併用療法)後に全脳照射を施行する第II相試験(41例,年齢中央値57歳)では,主要評価項目のMATILDE療法後のCR割合は44%,5年PFSおよびOSは各24%,30%であった11)レベルIIa)。また65歳以上の高齢者を対象としたPRIMAIN試験では,リツキシマブ+MTX+PCZ+ロムスチン(CCNU)の併用療法を3サイクル行い,PCZによる維持療法を実施した(107例,年齢中央値73歳)12)。主要評価項目の3サイクル後のCR割合は35.5%,2年PFSおよびOSは各37.3%,47.0%であった。治療関連死が9例(9%)に認められた(レベルIIa)。Laackらは70歳までの36例にCHOD療法(CPA+VCR+デキサメサゾン)後にBCNU+AraC+MTX併用(BVAM療法)を行う第II相試験を行った。主要評価項目の1年OSは64%,mOSは18.5カ月,mTTPは12.3カ月にすぎなかった。28%でグレード3/4の中枢神経毒性が認められたとしている13)レベルIIa)。
 以上より,HD-MTXと併用する多剤併用薬剤療法は一定の奏効と生存延長効果が多くの第II相試験で示されており,初期寛解導入療法として使用することを考慮してよいと考えられるが,ランダム化第III相試験での検証は未実施であることを念頭にレジメンを選択することが望ましい。
<注意>
カルムスチン(carmustine:BCNU):注射薬は国内未承認,徐放性ポリマーは承認
テモゾロミド(temozolomide: TMZ):適応外
チオテパ(thiotepa):国内非販売
文献検索式:
#1 Search ((Central Nervous System Neoplasms[MH] AND Lymphoma[MH]) OR ((PCNSL[TIAB] OR "primary central nervous system lymphoma" [TIAB] OR CNS[TIAB] OR (primary[TIAB] AND brain[tiab] AND lymphoma[TIAB]) NOT MEDLINE[SB]))) 14634
#2 Search (Antineoplastic Combined Chemotherapy Protocols[MH] OR Drug Therapy, Combination[MH] OR (((combination[TIAB] OR multiagent*[TIAB] OR multidrug*[TIAB]) AND (chemotherapy[TIAB] OR therapy[TIAB])) NOT medline[SB])) 307108
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#4 Search ((Randomized Controlled Trial[PT] OR Meta-Analysis[PT] OR Cohort Studies[MH:noexp] OR Follow-Up Studies[MH] OR Prospective Studies[MH] OR Clinical Trial, Phase II[PT] OR Clinical Trial, Phase III[PT] OR Clinical Trial, Phase IV[PT] OR prospective[TIAB] OR trial[TIAB]) AND (2011/4[PDAT]:2017/03[PDAT])) 625229 #5 Search (#1 AND #2 AND #3 AND #4) 37
  本改訂時の新規抽出文献数:37件
抽出後追加文献数:3件/計40件
本CQへの新規追加採用文献数:9件
◆文  献:(○:本改訂にて追加された文献)
1) ●Gavrilovic IT, Hormigo A, Yahalom J, et al. Long-term follow-up of high-dose methotrexate-based therapy with and without whole brain irradiation for newly diagnosed primary CNS lymphoma. J Clin Oncol. 2006;24(28):4570-4574 (レベルIIa)
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3) ○Morris PG, Correa DD, Yahalom J, et al. Rituximab, methotrexate, procarbazine, and vincristine followed by consolidation reduced-dose whole-brain radiotherapy and cytarabine in newly diagnosed primary CNS lymphoma: final results and long-term outcome. J Clin Oncol. 2013;31(31):3971-3979 (レベルIIa)
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