脳腫瘍診療ガイドライン2016年版の刊行にあたって
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1 作成の経緯
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脳腫瘍診療ガイドラインは,日本癌治療学会より日本脳神経外科学会にその作成依頼があり,日本脳神経外科学会から日本脳腫瘍学会にその作業が委託されたことが端緒である。2009年11月に日本脳腫瘍学会の内部組織として脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会(以下委員会)が設置され,その組織編成と対象疾患の絞り込みを開始,2011年5月に第1回委員会が開催された。委員会は日本脳腫瘍学会の当時の理事と3名の協力委員で構成され,成人膠芽腫,成人転移性脳腫瘍,中枢神経系原発悪性リンパ腫,髄芽腫,中枢神経系胚細胞腫瘍,グレード3乏突起膠腫の6項目を対象に作成作業が開始された。
その後,対象疾患を成人膠芽腫,成人転移性脳腫瘍,中枢神経系原発悪性リンパ腫の3項目に絞り,日本脳腫瘍学会の新理事が委員として加わった。また,日本脳腫瘍学会,日本放射線腫瘍学会,日本臨床腫瘍学会の3学会からご推薦を受けて,新たに協力委員としてご参加をいただいた。
初回脱稿時期が中枢神経系原発悪性リンパ腫は2012年10月,成人膠芽腫と成人転移性脳腫瘍は2013年12月と異なるため,前者と後2者で文献検索時期と委員会構成メンバーに相違あることを付記する。
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2 作成手順
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1. |
臨床的疑問(clinical question:CQ)の作成,決定
最初に委員の全員が参加してそれぞれの対象項目の素案作成メンバーを決定し,素案作成メンバーが手術,放射線治療,化学療法等についてのCQを作成,委員会全体で討議してCQを決定した。疫学,病理分類,分子生物学,診断等についてはCQには含まず,総論の中で詳述することとした。
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2. |
文献検索
検索ワード,検索時期,検索手段は各章の総論をご参照いただきたい。機械的文献検索以外に委員によるハンドサーチによる重要文献の追加も適宜行った。
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3. |
文献吟味と推奨とその解説の作成
委員全体で拾い上げた文献の徹底的な吟味を行い,それをもとに素案作成メンバーがCQに対する推奨と解説素案を作成した。同時に構造化抄録素案の作成も行った。これら脳腫瘍診療ガイドライン2016年版の刊行にあたって2脳腫瘍診療ガイドライン2016年版の刊行にあたって素案をメールでの回覧・討論の後,適宜,拡大ガイドライン委員会として委員が一堂に会して討論,修正を行った。これら経過のため,脳腫瘍診療ガイドライン2016版の文責は各項目に掲載されている委員個々が均等に負っている。
なお,重要な文献については構造化抄録を作成し,日本脳腫瘍学会のホームページ上で公開する予定である。
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3 エビデンスレベル分類表
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エビデンスレベル
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Ⅰa |
複数のランダム化比較試験のメタ分析による |
Ⅰb |
少なくとも一つのランダム化比較試験による |
Ⅱa |
少なくとも一つの非ランダム化比較試験による |
Ⅱb |
少なくとも一つの他の準実験的研究による |
Ⅲ |
コホート研究や症例対照研究,横断研究などの分析疫学的研究による |
Ⅳ |
症例報告やケース・シリーズなどの記述研究による |
Ⅴ |
患者データに基づかない,専門委員会の報告や権威者の意見による |
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4 推奨グレードの分類表とその決定方法
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推奨グレードの決定は委員会委員の討議の後,多数決によって行った。
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推奨グレードの分類
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A |
強い科学的根拠があり,行うように強く勧められる |
B |
科学的根拠があり,行うように勧められる |
C1 |
科学的根拠はないが,行うように勧められる |
C2 |
科学的根拠がなく,行わないように勧められる |
D |
無効性あるいは害を示す科学的根拠があり,行わないように勧められる |
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注:.推奨グレードAは,強い推奨を示すことが多いが,他の治療法を排除するわけではない。
(日本癌治療学会がん診療ガイドライン委員会委員長の書簡2013年3月13日)
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推奨グレードの決め方
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1 |
エビデンスレベル |
2 |
エビデンスの数の多さ,結論のばらつき |
3 |
臨床的有効性の大きさ |
4 |
臨床上の適用性 |
5 |
害やコストに関するエビデンス |
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5 保険承認,保険適応状況の記載
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CQごとに解説文中に保険未承認,保険適応外の薬剤の記載がある場合は,それぞれ<注意>として示している。
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6 外部評価
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本ガイドラインは以下の評価を受けている。
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1. |
日本脳腫瘍学会会員からのパブリック・コメント
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2. |
一般社団法人日本脳神経外科学会学術委員会の評価
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3. |
国際医療福祉大学化学療法研究所付属病院人工透析センター・一般外科教授 吉田雅博先生による,主にAGREEⅡによる評価
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4. |
一般社団法人日本癌治療学会がん診療ガイドライン評価委員会による評価
なお,3章:中枢神経系原発悪性リンパ腫は,上記に加え,一般社団法人日本血液学会造血器腫瘍診療ガイドライン作成委員会の評価
も受けている。
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7 資金源と委員の利益相反関係
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本ガイドライン作成の資金源は特定非営利活動法人日本脳腫瘍学会および一般社団法人日本脳神経外科学会による。
利益相反については特定非営利活動法人日本脳腫瘍学会規定により委員の自己申告を集め,同学会COI管理委員会によって審査を行い,その作成と利益相反に問題のないことを確認した。各章の総論に,開示すべき利益相反を掲載した。
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8 改訂
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全面改訂は原則として各分野の機械的文献検索最終日から5年後を目安に行う予定である。その間に重要な新エビデンスの公開,エビデンスの変更等があれば,適宜部分改訂を行う予定である。
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9 おわりに
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日常臨床の場で診療に携わる医師が本ガイドラインを大いに活用することによって,適切な脳腫瘍診療が広まり,患者さんの病苦が改善され,希少疾患であるが故の孤独感が緩和されることを祈念する。具体的な使用方法として,本ガイドラインを個別症例の治療方針決定に利用したり,インフォームドコンセントの場で活用すること等が想定される。また,本ガイドライン記載されている内容とは異なる治療や治療方針を選択する場合にも,その根拠として利用できる。
脳腫瘍臨床に携わる医師は本ガイドラインの使用に際しては,個々の患者さんの状況や社会規範,医療機関・医療従事者の立場を配慮し,柔軟に運用していただきたい。本ガイドラインは医師個人の裁量権を制限するものではなく,また種々の医療訴訟の資料として用いることはガイドラインの目的を逸脱するものである。
また,本ガイドラインは患者向けではなく,あくまで脳腫瘍臨床に携わる医師を利用対象者に設定しているため,医師以外の方が利用される場合は作成目的を十分ご勘案いただくよう,改めてここに記載する。
公益社団法人日本放射線腫瘍学会と公益社団法人日本臨床腫瘍学会の両学会からは,本委員会に委員の推薦を頂いた。ここに御礼を申し上げる次第である。
最後に本ガイドライン作成に日夜を分かたずご尽力頂いた日本脳腫瘍学会脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会の委員全員に深謝申し上げる。
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| 平成28年6月
特定非営利活動法人日本脳腫瘍学会
脳腫瘍診療ガイドライン拡大委員会
委員長 杉山一彦 |
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