2020年(令和2年)11月28日より、特定非営利活動法人日本脳腫瘍学会の理事長を拝命いたしました。大任を仰せつかり、重責のある立場として身の引き締まる思いでございます。理事および会員の皆様のご支援を頂きながら、新たな学会運営、学会の発展に向けて、そして何よりも患者さんのために全力を尽くしてまいりたいと存じます。よろしくお願い申し上げます。
本学会は、日本国内における脳腫瘍(Neuro-oncology)関連の学会・研究会の中で、もっとも長い伝統と歴史をもつ会であり、日本脳神経外科学会の脳腫瘍領域の分科会にも指定されています。1980年に本学会の前身である第1回「日光脳腫瘍カンファレンス」が永井政勝会長により開催されたことを端緒に、2002年に任意学術団体「日本脳腫瘍学会」が創立され、学会へと進化いたしました。2008年に特定非営利活動法人として認証され、理事長は初代の松谷雅生先生から、渋井壮一郎先生、西川亮先生へと引き継がれ、脳腫瘍に関する基礎・臨床研究の推進、普及に貢献し、社会福祉の増進に寄与することを目的として活動を発展させてまいりました。
脳腫瘍はさまざまながん腫の中ではいわゆる「希少がん」の一つに分類されますが、神経膠腫(特に膠芽腫)、悪性リンパ腫、転移性脳腫瘍などは高齢者に多く、依然生命予後が不良な「難治がん」です。また、脳腫瘍は白血病と並び小児期に好発する腫瘍でもあります。中枢神経系が侵されることにより、麻痺や高次脳機能障害、また意識障害など社会生活のみならず自己のケアを維持することも困難となりやすく、あらゆる角度からの医療資源の投入、患者さんの支持・支援を必要とする疾患です。
これまで我が国では脳神経外科医が中心となって脳腫瘍の診療全般に当たってまいりました。しかし上記のように患者さんの多角的管理に加え、治療の柱でもある放射線治療、画期的な遺伝子解析法や分子診断が標準化されつつある病理診断学、免疫・分子標的治療が躍進する薬物療法にがんゲノム医療、さらには小児脳腫瘍など、他の多領域にわたる専門性が要求されることがNeuro-oncologyの特徴でもありますので、今年度からこれらの領域を担当する制度を導入いたしました。会員のみならず関連する領域の皆様の英智を結集し、心を一つにして邁進したいと思います。
神経膠腫を中心とした悪性脳腫瘍では、1990年からの米国での“Decade of the Brain”宣言も相まって、腫瘍形成と悪性化に関わる遺伝子異常に関する知見が飛躍的に蓄積され、2016年に改定された世界保健機関(WHO)の中枢神経系(脳)腫瘍分類では、腫瘍型を規定する遺伝子変異の有無が診断名に必須とされるに至りました。しかし必要とされる分子診断法の多くは未だ保険収載がされておらず、国内で広く国際基準の病理診断が可能となることは本学会としても喫緊の課題であり、関連病理系学会と協力して関係当局との交渉を進めてまいりました。オンコパネルを用いたゲノム医療体制への対応も含め、保険診療下での正確な診断と治療機会が得られるようさらに取り組んでまいります。