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 2024年(令和6年)11月27日より、特定非営利活動法人日本脳腫瘍学会の理事長を拝命いたしました。大任を仰せつかり、重責のある立場として身の引き締まる思いでございます。理事および会員の皆様のご支援を頂きながら、学会の進歩に励むとともに脳腫瘍診療・研究の発展を通して患者さんのために全力を尽くしてまいりたいと考えております。何卒よろしくお願い申し上げます。

 本学会は、日本国内における脳腫瘍(Neuro-oncology)関連の学会・研究会の中で、もっとも長い伝統と歴史をもつ会です。日本脳神経外科学会の脳腫瘍領域の分科会に指定されていますが、病理学、小児科学、腫瘍内科学、放射線医学、基礎医学領域、リハビリテーション医学を含む多くの領域の研究者、および患者会代表の方など他職種の方が参加しており、脳腫瘍に関する研究の推進に貢献し、社会福祉の増進に寄与することを目的として活動を発展させてきました。1980年に本学会の前身である有志による「日光脳腫瘍カンファレンス」が永井政勝会長のもとで開催されたことを端緒とし、2002年に任意学術団体「日本脳腫瘍学会」が創立されて広く参加者を募う学会へと発展しました。2008年に特定非営利活動法人として認証され、理事長は初代の松谷雅生先生から、渋井壮一郎先生、西川亮先生、永根基雄先生へと引き継がれてきました。

 脳腫瘍はいわゆる「希少がん」であり、その呼称は有名であるものの実態については広く知られていないことが多いと思われますが、中枢神経系が侵されることにより様々な症状を起こす疾患であり、生命の危険も及ぼすことがある疾患です。多くの領域の医療者が力を合わせて診療するとともに、患者さん本人はもとよりご家族の方々の協力支援も必要になることが多いものです。しかし最近は放射線治療の進歩、遺伝子解析に基づいた病理診断学、小児脳腫瘍についての効果的薬物治療の確立、がんゲノム医療に基づいた薬物療法の進歩などによって診療技術の進歩が続いています。さらなる発展のために日本脳腫瘍学会の活動が貢献できれば望外の喜びであります。その一方、脳腫瘍診療において大きな課題もあります。

 2021年に改定された世界保健機関(WHO)の脳腫瘍分類では、遺伝子診断が不可欠なものであるにもかかわらず、検査法の多くは本邦では保険収載されておらず、今後も関係当局との交渉が必要です。多くの期待がかけられているオンコパネルを用いたゲノム医療も繰り返し行うことは無理な状況であり、時に進行・再発を繰り返す腫瘍の診療場の課題の一つとして指摘されています。また、新規薬剤についても期待される方が多く、迅速な承認に向けて本学会が果たすべき役割もあるものと考えています。 今後の脳腫瘍診療・研究の発展のためには若手研究者の育成と卒後教育プログラムの充実が必要です。本学会では、脳腫瘍研究の世界的な先達者であられた故星野孝雄先生のご遺志を受け、1993年の第2回日本脳腫瘍カンファレンス開催時より優れた脳腫瘍研究論文に対して「星野賞」を授与し、研究を支援、奨励してきました。これに加えて今後も学会による研究支援を継続していく予定でおります。診療現場に必要な知識のアップデートを図って頂くべく会員に対する教育プログラムの確立も行うとともに、市民公開講座による脳腫瘍研究に関する啓発活動も引き続き行っていきます。最新知見にも続いた診療を推進するための脳腫瘍診療ガイドラインの作成・更新も本学会の重要な事業であり、今後も多くの方々のご意見を頂きながら進めてまいりたいと考えています。

 現在の医学は国際協力によって進歩していることは申すまでもありませんが、脳腫瘍についても同様で、国際的な学術団体としては、本学会が所属するアジア脳腫瘍学会(ASNO)、米国脳腫瘍学会(SNO)及び欧州脳腫瘍学会(EANO)があり、これらによって世界脳腫瘍会議(WFNOS)が構成されています。国際的な学術組織において日本脳腫瘍学会が重要な役割を果たせるよう交流を深めていくことも重要です。しかし、何と申しても日本脳腫瘍学会自体が自己発展することが大事であり。そのための努力を怠らない決意であります。今後ともご支援、ご指導のほど何卒よろしくお願い申し上げます。
特定非営利活動法人日本脳腫瘍学会
理事長 廣瀬 雄一
(藤田医科大学医学部 脳神経外科学 教授)
 2020年(令和2年)11月28日より、特定非営利活動法人日本脳腫瘍学会の理事長を拝命いたしました。大任を仰せつかり、重責のある立場として身の引き締まる思いでございます。理事および会員の皆様のご支援を頂きながら、新たな学会運営、学会の発展に向けて、そして何よりも患者さんのために全力を尽くしてまいりたいと存じます。よろしくお願い申し上げます。
 本学会は、日本国内における脳腫瘍(Neuro-oncology)関連の学会・研究会の中で、もっとも長い伝統と歴史をもつ会であり、日本脳神経外科学会の脳腫瘍領域の分科会にも指定されています。1980年に本学会の前身である第1回「日光脳腫瘍カンファレンス」が永井政勝会長により開催されたことを端緒に、2002年に任意学術団体「日本脳腫瘍学会」が創立され、学会へと進化いたしました。2008年に特定非営利活動法人として認証され、理事長は初代の松谷雅生先生から、渋井壮一郎先生、西川亮先生へと引き継がれ、脳腫瘍に関する基礎・臨床研究の推進、普及に貢献し、社会福祉の増進に寄与することを目的として活動を発展させてまいりました。
 脳腫瘍はさまざまながん腫の中ではいわゆる「希少がん」の一つに分類されますが、神経膠腫(特に膠芽腫)、悪性リンパ腫、転移性脳腫瘍などは高齢者に多く、依然生命予後が不良な「難治がん」です。また、脳腫瘍は白血病と並び小児期に好発する腫瘍でもあります。中枢神経系が侵されることにより、麻痺や高次脳機能障害、また意識障害など社会生活のみならず自己のケアを維持することも困難となりやすく、あらゆる角度からの医療資源の投入、患者さんの支持・支援を必要とする疾患です。
 これまで我が国では脳神経外科医が中心となって脳腫瘍の診療全般に当たってまいりました。しかし上記のように患者さんの多角的管理に加え、治療の柱でもある放射線治療、画期的な遺伝子解析法や分子診断が標準化されつつある病理診断学、免疫・分子標的治療が躍進する薬物療法にがんゲノム医療、さらには小児脳腫瘍など、他の多領域にわたる専門性が要求されることがNeuro-oncologyの特徴でもありますので、今年度からこれらの領域を担当する制度を導入いたしました。会員のみならず関連する領域の皆様の英智を結集し、心を一つにして邁進したいと思います。
 神経膠腫を中心とした悪性脳腫瘍では、1990年からの米国での“Decade of the Brain”宣言も相まって、腫瘍形成と悪性化に関わる遺伝子異常に関する知見が飛躍的に蓄積され、2016年に改定された世界保健機関(WHO)の中枢神経系(脳)腫瘍分類では、腫瘍型を規定する遺伝子変異の有無が診断名に必須とされるに至りました。しかし必要とされる分子診断法の多くは未だ保険収載がされておらず、国内で広く国際基準の病理診断が可能となることは本学会としても喫緊の課題であり、関連病理系学会と協力して関係当局との交渉を進めてまいりました。オンコパネルを用いたゲノム医療体制への対応も含め、保険診療下での正確な診断と治療機会が得られるようさらに取り組んでまいります。

 医療技術や治療法が開発される中、日常臨床における適正な治療実践の指針となる診療ガイドラインの作成も本学会の使命のひとつです。日本癌治療学会の統括の下、日本脳神経外科学会からの委嘱を受け、主要な成人悪性脳腫瘍として、膠芽腫、転移性脳腫瘍、中枢神経系原発悪性リンパ腫に対するガイドラインを2016年に初めて発刊し、2019年には改訂版を刊行いたしました。さらに小児系の脳腫瘍やGrade II/III神経膠腫に対するガイドラインがまもなく完成する見込みです。これらのガイドラインは、脳腫瘍治療の均てん化、患者と医療者間での共通認識の醸成、チーム医療の充実に大きく寄与してきております。日進月歩の医療進歩を受け、時機を逸しないアップデートも行ってまいります。
 昨今、医療における標準化と質の担保を目的に、様々な診療領域において専門医制度が求められ、日本専門医機構が発足し国内での統一した基準の下、基本領域および一部横断的なサブスペシャリティー領域に対する制度化が進められています。脳腫瘍の診療においては多領域にわたる専門性をもったアプローチが望まれる中、日本脳神経外科学会の分科会としての本学会の立ち位置や他のサブスペシャリティー領域との調和を計りながら、脳腫瘍における専門医、認定医のあり方を早急に検討していく必要があると考えております。
 そのためにも、脳腫瘍の教育システムの推進と若手研究者の育成は重要な取り組みとなります。本学会では、本学会の創立に貢献され、脳腫瘍研究の世界的な先達者であられた故星野孝雄先生のご遺志を受け、1993年の第2回日本脳腫瘍カンファレンス開催時より優れた脳腫瘍研究論文に対して「星野賞」を授与し、脳腫瘍学の進歩に貢献する研究を支援、奨励してまいりました。また学術集会で発表される研究に対する優秀演題賞に加え、学術面での支援体制も今後構築していく予定です。さらに会員に対する教育セミナーを充実化し、急速な進歩を遂げる基礎研究の知見や各腫瘍に対する新たな臨床試験の成果などを定期的にお届けできるようなシステム整備を進めてまいります。同時に一般の方々へも脳腫瘍についてわかりやすく解説する市民公開講座を継続していくとともに、ホームページを利用した閲覧可能な教育コンテンツも掲載していきたいと考えております。今年、COVID-19感染症のパンデミック渦により、学会活動も大きな転換期を迎えておりますが、その中で遠隔情報技術を駆使した会議、授業や講演会の活用化が一気に進みました。まさにこれら新技術の教育システムへの応用が大いに期待されます。
 欧米のNeuro-oncology領域の専従者と比べると、本邦では依然女性スタッフが少ない点が指摘されます。臨床のみならず、基礎研究やコメディカル領域では女性スタッフが多く従事されており、また小児や緩和医療の現場ではその活躍は必須とも言えます。広く学会として女性医師、研究者、スタッフの参画を推進していくことが必要であり、昨年の学術集会では、初めて “Women in Neuro-oncology(WiN)”の集いを米国の先駆者をお招きし開催いたしました。今年度からは男女共同参画に関する委員会等を立ち上げ、一層の推進ができるよう取り組んでまいります。
 本学会の発展も、国際協力なくしては望めません。国際的なNeuro-oncologyの学術団体としては、本学会が直接所属するアジア脳腫瘍学会(ASNO)があり、さらに世界的には米国の脳腫瘍学会(SNO)及び欧州脳腫瘍学会(EANO)とともに、世界脳腫瘍会議(WFNOS)を構成しております。本学会の学術活動の国際的見える化を図るひとつの試みとして、学術集会の抄録集を英文化し、WFNOSの国際機関誌である “Neuro-Oncology Advances(NOA)”誌にonline掲載を行いました。これらの国際学会組織において、日本が果たすべき役割を明確に認識し、これまで以上にプレゼンスを発揮できるよう積極的な人的・知的交流を深めていくことが肝要と考えております。
 近年、医療を取り巻く環境は大きく変わりつつあり、超高齢化社会とそれに伴う人口減少、働き方改革、医療経済、医療安全や医療倫理等、様々な対応が高いレベルで求められております。私たちは、患者さんに寄り添う診療を提供することを第一に、その基盤となるよりよい治療の開発を目指すための脳腫瘍学の発展に向けて、高い理念と熱い情熱とを抱いて、脳腫瘍の診療と研究に取り組んでまいります。そして、延いては国民の健康と福祉に貢献できるよう、会員の皆様とともに全身全霊で努力精進してまいります。ご支援、ご指導のほど何卒よろしくお願い申し上げます。
第4代理事長 永根 基雄(杏林大学医学部脳神経外科学)
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